コレラ その実態と現代の課題

コレラの概要

「コレラ」と聞くと、19世紀のパンデミックや歴史ドラマに登場する古めかしい気を思い浮かべる方もいるかもしれません。しかし現代においても一部の途上国ではコレラは深刻な問題として残っています。ビブリオ・コレラ菌という細菌が原因で、特に公衆衛生が十分でない地域で猛威を振るいます。感染すると激しい水様性下痢を引き起こし、早急な治療が行われなければ命を落とすこともあります。

流行地

現在のコレラは、特にアフリカ、南アジア、東南アジア、南アメリカなどで流行しています。最近のトピックでは、2023年にはハイチで大規模なコレラ流行が報告されました。この背景には、紛争や自然災害、そして気候変動による洪水が関与しています。紛争地や災害地のような、水道が壊れて飲み水も限られる状況で、手洗いさえままならない不衛生な環境はコレラ菌が繁殖するリスクとなります。

感染経路

コレラの感染経路は”汚染された水や食品”です。飲んだ水がコレラ菌に汚染されていたり、適切に調理されていない食品を口にすることで感染します。特に問題なのは、上下水道が整備されていない、もしくは紛争や災害で一時的に上下水道が利用できない状況では、感染者の糞便と共に排出されたコレラ菌を含む汚水が、洗浄や消毒処理がされないまま別の人の飲み水として使用されてしまうことで、さらなる感染拡大を招きます。

症状

コレラに感染しても、軽症や無症状で済むこともありますが、最も特徴的なのは”米のとぎ汁”のような水様性下痢です。これが何度も続き、吐き気や嘔吐を伴うこともあります。重篤な場合、体の水分と電解質が失われ、脱水症が進行するとショックとなり致死的となることも少なくありません。

診断と検査

コレラの診断には、糞便培養検査が行われますが、実際の現場では一刻も早い臨床診断をして点滴等の支持療法を開始しないと命に関わるため、培養結果を待たずに医師の判断で診断に至ることが一般的です。最近では、流行地で簡易診断キットも使われるようになり、これが感染拡大を抑える大きな武器になっています。

治療

治療の基本は、失われた水分と電解質を補うことです。現代の一般的な健康状態の体力においては、軽症例なら経口補水塩(ORS)があれば十分ですが、重症例では点滴を用いた輸液が必要になります。抗生物質も有効でドキシサイクリンやアジスロマイシンなどが使用されます。ただし抗生物質はあくまで補助的な役割で、生死を分けるのは迅速な水分補給です。

コレラ予防:日常の工夫からワクチン接種まで

コレラにかからないためには、どうすれば良いのでしょうか?予防のキーワードは「水」、そして現代の強力な武器であるワクチンです。

個人でできる対策

不衛生な上下水道環境の地域や、上下水道の機能が停止している災害地などでは、まずは基本の基本として、清潔な水を飲むことです。ペットボトルの水を選んだり、飲む前に煮沸したり、水をろ過するフィルターを使うという手段もあります。次に、石けんを使った手洗いの徹底が大事で、特に食事の前とトイレの後の手洗いを欠かしてはいけません。生ものや不衛生な食品を避け、食べ物を十分に加熱することも大切です。これらは当たり前のようですが、不衛生な環境の流行地では、基本的な清潔対策の実施自体が難しい場合も少なくありません。

予防的なワクチンの活用

コレラワクチンは、特に流行地域や感染リスクの高い環境では、渡航前の接種が推奨されます。

ワクチンの種類と接種方法

現在、WHOが推奨する経口ワクチンとして、Dukoral、Shanchol、Euvicholなどがあります。いずれも飲むタイプのワクチンで、2回接種が基本です。Dukoralは少量の水で溶かして飲みますが、ShancholやEuvicholはそのまま飲む形で接種します。

効果と持続性

接種後1週間程度で免疫がつき、6か月から2年程度の防御効果があります。ただし、長期的な効果を維持するには追加接種が必要です。予防効果は完全ではないものの、発症を防ぐ可能性が高く、感染しても症状が軽減されます。

副反応

経口ワクチンの副反応は非常に軽微で、吐き気や軽い腹痛程度が一般的です。重篤な副反応は極めて稀で、安心して接種できると言えるでしょう。

推奨の根拠

WHOは、アフリカ・南アジア・東南アジア・南アメリカなどのコレラ流行地域、難民キャンプ、災害後の感染リスクが高い地域でのワクチン接種を強く推奨しています。これらの地域では、ワクチンが命を守る重要な役割を果たしているのです。

内藤 祥
医療法人社団クリノヴェイション 理事長
専門は総合診療
離島で唯一の医師として働いた経験を元に2016年に東京ビジネスクリニックを開院。
日本渡航医学会 専門医療職

 

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