毎年やってくる健康診断の準備、従業員への案内、膨大な予約調整、未受診者への督促、そして結果の回収とデータ入力。これら一連の業務は、人事担当者の皆さまにとって、もはや「日常業務」を通り越した「恒常的な負担」になっているのではないでしょうか。特に、Excel での手作業による管理は、担当者の異動や情報更新の漏れ、ヒューマンエラーのリスクと常に隣り合わせです。ましてや、2025 年からの健康診断結果の電子申請義務化など、法改正の波も押し寄せ、従来の管理方法では対応しきれないという焦りを感じているかもしれません。
本記事では、こうした人事担当者の皆さまが抱える共通の悩みに深く寄り添い、健康診断管理の煩雑さを根本から解消するための具体的な方法論を提示します。単に業務を効率化するだけでなく、法規制を遵守し、従業員の健康を守りながら企業の生産性向上にも貢献する、2026 年に向けた「新しい健康診断管理の常識」を、ぜひ本記事で見つけてください。
なぜ今、健康診断の管理方法が見直されているのか?
多くの企業において、従業員の健康診断の管理は人事担当者の皆様にとって大きな負担となっているのが現状です。煩雑な予約調整、膨大な量の紙媒体での結果管理、未受診者への対応など、日々の業務に追われる中で、その効率化は長年の課題でした。しかし今、従来の健康診断の管理方法が限界を迎え、抜本的な見直しが急務となっています。
その背景には、「従来の管理方法の限界」と「外部環境の変化」という二つの大きな要因があります。これらの要因が複雑に絡み合い、もはやアナログな手法では対応しきれない状況が生まれているのです。これから、これらの要因について詳しく解説し、なぜ今、健康診断の管理体制を刷新する必要があるのかを掘り下げていきます。
従来の管理方法(Excel・手作業)の限界
これまで多くの企業で行われてきた Excel や電話、メールを中心とした手作業による健康診断管理は、多くの非効率性とリスクをはらんでいます。例えば、従業員数百人規模の企業では、毎年一度の定期健康診断だけでも膨大な予約調整が必要となり、従業員からの希望日時を一つ一つ確認し、提携する医療機関と連絡を取り合うだけでも多大な工数がかかります。この過程で、予約の重複や漏れといったヒューマンエラーが発生しやすく、特定の担当者に業務が集中することで属人化を招く要因にもなっていました。
また、従業員情報の更新漏れも頻繁に発生します。入社、退職、異動などにより従業員リストは常に変動しますが、Excel などで手作業で管理していると、最新の情報が反映されずに健康診断の対象者リストに不備が生じることがあります。これにより、本来受診すべき従業員が漏れたり、すでに退職した従業員に誤って案内を送ってしまったりといったトラブルにつながるケースも少なくありません。
健康診断実施後も、紙で提出される結果の回収とデータ入力に膨大な時間と労力がかかります。何百人分もの結果を手作業で Excel に転記する作業は、入力ミスのリスクが高く、さらに有所見者や要再検査の対象者を一つ一つチェックし、フラグを立てていく作業は想像以上に重労働です。これらの紙媒体の結果は物理的な保管場所も必要となり、ファイリングや検索の手間も管理担当者の大きな負担となっていました。
働き方の多様化と法改正が求める新たな管理体制
従来の管理方法が限界を迎える一方で、社会全体の働き方の多様化と、それに伴う法改正の動きが、健康診断管理のあり方に新たな課題を突きつけています。リモートワークや時短勤務、フレックスタイム制など、従業員の働き方が多様化している現代では、特定の時期に全員を一斉に集めて健康診断を受診させることが非常に困難になっています。従業員一人ひとりの勤務形態や居住地を考慮した上で、個別に受診機会を調整する必要があるため、人事担当者の業務は一層複雑化しています。
さらに、2025 年 1 月からは、常時 50 人以上の労働者を使用する事業場に対し、労働基準監督署への「健康診断結果報告書」の電子申請が義務化されます。これは、企業が健康診断結果をデータとして適切に管理・保有することを実質的に求めるものであり、これまでのような紙や手作業によるバラバラな管理体制では対応しきれなくなります。健康診断結果の電子申請義務化は、アナログな管理からの脱却を促し、デジタルを前提とした新しい管理体制の構築が不可欠であることを明確に示しているのです。
これらの外部環境の変化は、従来の属人的で非効率な健康診断管理体制を根本から見直すことを企業に求めています。単なる事務作業の効率化だけでなく、従業員の健康を守り、企業の法的責任を果たすためにも、デジタル技術を活用した新しい管理体制への移行は避けては通れない道となっています。
まずは基本から|企業に義務付けられた健康診断の種類と概要
企業には、従業員が安全かつ健康に働ける環境を整える「安全配慮義務」が課されています。その重要な一環として、従業員の健康状態を定期的に確認するための健康診断の実施が、労働安全衛生法によって義務付けられています。健康診断は単なるルーティン業務ではなく、従業員の健康を守り、ひいては企業の生産性向上にもつながる重要な取り組みです。
このセクションでは、企業が実施を義務付けられている代表的な健康診断として、「雇入れ時健康診断」「定期健康診断」「特殊健康診断」の 3 種類について、それぞれの概要を解説していきます。これらの健康診断がどのような目的で、誰を対象に行われるのかを正確に理解することで、適切な健康管理体制を構築する第一歩となります。
雇入れ時健康診断:入社時の健康状態を把握
「雇入れ時健康診断」は、労働安全衛生法第 43 条に基づき、企業が新たに採用する従業員に対して義務付けられている健康診断です。その主な目的は、従業員が入社する際の健康状態を正確に把握することにあります。この診断結果を通じて、その従業員に適した業務配置を検討したり、入社後の健康管理の基礎情報として役立てたりすることが可能になります。
この健康診断は、新たな従業員を企業に迎え入れるにあたり、お互いにとって安心して働き始められる環境を作るための大切なステップです。後続のセクションで詳細を解説しますが、ここでは、入社時の健康状態をチェックし、適切な職場環境を提供する上での第一歩となることを理解しておきましょう。
定期健康診断:年に 1 度の定期チェック
「定期健康診断」は、労働安全衛生法第 44 条によって義務付けられており、常時使用する労働者に対して 1 年以内ごとに 1 回、定期的に実施する必要があります。この健康診断の目的は、従業員の健康状態を経年的に把握し、日々の業務による健康への影響や、生活習慣病などの早期発見・早期対応につなげることにあります。
年に一度の定期チェックを行うことで、従業員一人ひとりの健康状態の変化をタイムリーに捉え、必要に応じて産業医面談や生活指導などの事後措置を講じることが可能になります。これにより、従業員の健康維持・増進を図り、長期的に安定して働ける環境をサポートする重要な役割を担っています。
特殊健康診断:特定の有害業務に従事する従業員が対象
「特殊健康診断」は、特定の有害な業務に従事する労働者を対象とした、専門性の高い健康診断です。例えば、高圧室内作業、有機溶剤を取り扱う業務、放射線を取り扱う業務などがこれに該当します。これらの業務は、通常の業務と比較して従業員の健康に特定の悪影響を及ぼす可能性があるため、労働安全衛生法に基づき、通常とは異なる特別な検査項目が設けられています。
一般的なオフィスワークを中心とする企業の場合、特殊健康診断の対象となるケースは少ないかもしれませんが、自社で特定の有害業務が存在しないか、あるいは将来的に発生する可能性がないかを確認することは重要です。対象となる従業員がいる場合は、一般的な健康診断とは別に、それぞれの業務特性に応じた適切な特殊健康診断を計画的に実施し、従業員の健康を保護する義務があります。
【雇入れ時健康診断】人事担当者が押さえるべき 4 つの法的ポイント
中途採用や新卒採用が活発な時期には、人事担当者の方が特に対応に追われるのが「雇入れ時健康診断」です。法律で実施が義務付けられているとはいえ、具体的な運用となると判断に迷う場面も少なくありません。このセクションでは、雇入れ時健康診断に関して人事担当者が実務で押さえておくべき法的ポイントを 4 つに絞り、具体的な内容を解説していきます。これらの知識は、法律を遵守し、従業員の健康管理におけるトラブルを未然に防ぐために不可欠です。ぜひ、日々の業務にお役立てください。
ポイント 1:対象者は誰?正社員・パート・アルバイトの基準を解説
雇入れ時健康診断の実施義務があるのは「常時使用する労働者」です。この「常時使用する労働者」という定義が曖昧で、誰が対象になるのか判断に迷う人事担当者の方も多いのではないでしょうか。
「常時使用する労働者」とは、原則として期間の定めのない労働契約を結んでいる正社員を指します。しかし、パートタイマーやアルバイトの方も、以下の 2 つの条件を両方満たす場合には雇入れ時健康診断の対象となります。
- 契約期間が 1 年以上である、または更新により 1 年以上となる見込みがある
- 1 週間の労働時間が、通常の労働者(正社員など)の 4 分の 3 以上である
例えば、週 5 日勤務で 1 日 6 時間働くパート従業員は、正社員が 1 日 8 時間勤務の場合、週の労働時間が正社員の 4 分の 3(8 時間×0.75=6 時間)に該当するため、雇入れ時健康診断の対象です。一方で、週 3 日勤務で 1 日 5 時間働くアルバイト従業員は、週の労働時間が正社員の 4 分の 3 を下回るため、対象外となります。
このように、単に雇用形態だけで判断するのではなく、契約期間や労働時間といった具体的な基準に照らし合わせて、一人ひとりの従業員が対象となるか否かを正確に判断することが重要です。不明な場合は、労働基準監督署や産業保健専門家に確認することをおすすめします。
ポイント 2:実施時期はいつまで?入社前でも可能?
雇入れ時健康診断の実施時期は、労働安全衛生法で「雇入れの直前又は直後」と定められています。一般的には、入社後 3 ヶ月以内に実施することが望ましいとされていますが、企業によっては入社手続きの一環として、入社前に受診を促すケースも少なくありません。
実務でよくある質問として、「入社前に従業員が自分で受けた健康診断の結果を流用しても良いのか?」という疑問があります。この点については、いくつかの条件を満たせば、入社前の健康診断結果を雇入れ時健康診断の代わりとすることが可能です。具体的には、以下の 2 つの条件を両方満たしている必要があります。
- 入社前 3 ヶ月以内に実施された健康診断であること
- 労働安全衛生規則で定められている雇入れ時健康診断の検査項目を全て満たしていること
これらの条件を満たしていることを証明するため、従業員から健康診断の結果票を提出してもらい、内容を確認・保管することが重要です。これにより、企業が改めて健康診断を実施する手間やコストを削減できるだけでなく、従業員にとっても二度手間を省くことができます。
ポイント 3:法律で定められた 11 の検査項目
労働安全衛生規則第 43 条では、雇入れ時健康診断で実施すべき 11 の検査項目が具体的に定められています。これらの項目は、新しく雇用する労働者の健康状態を把握し、適切な業務配置や健康管理を行う上で非常に重要です。具体的な検査項目は以下の通り
です。
- 既往歴及び業務歴の調査:過去の病歴や現在抱えている疾患、これまでの職務経歴などを確認します。
- 自覚症状及び他覚症状の有無の検査:疲労感や痛みなどの自覚症状、医師による診察で確認できる他覚症状を調べます。
- 身長、体重、腹囲、視力及び聴力(1000Hz 及び 4000Hz)の検査:身体測定や、
視力・聴力検査で基本的な身体能力を把握します。 - 胸部エックス線検査:肺や心臓の状態を確認し、結核などの肺疾患の有無を調べます。
- 血圧の測定:高血圧や低血圧の有無を確認します。
- 貧血検査(血色素量及び赤血球数):貧血の有無を調べます。
- 肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP):肝臓の機能に異常がないかを確認します。
- 血中脂質検査(LDL コレステロール、HDL コレステロール、血清トリグリセライド):高脂血症の有無を調べます。
- 血糖検査:糖尿病の有無を調べます。
- 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無):腎臓の機能や糖尿病の有無を確認します。
- 心電図検査:心臓の動きに異常がないかを確認します。
これらの検査項目は、従業員の健康状態を総合的に判断するための基本的な要素です。なお、医師の判断により、一部の項目を省略できる場合もあります。例えば、胸部エックス線検査などは、過去の健康診断結果や医師の問診内容に基づいて省略されるケースがあります。
ポイント 4:費用負担は会社?個人?原則は企業負担
雇入れ時健康診断にかかる費用は、誰が負担するべきかという点も人事担当者が把握しておくべき重要なポイントです。結論から言えば、労働安全衛生法により実施が義務付けられている健康診断であるため、その費用は原則として企業(事業者)が負担しなければなりません。
これは、企業が労働者を採用する際に、その健康状態を確認する義務が課せられているためです。従業員に費用を負担させることは、法的な義務を従業員に転嫁することになり、基本的には認められていません。
ただし、従業員が任意で追加する人間ドックなどのオプション検査や、企業が指定した医療機関以外で受診した場合の差額などについては、企業に支払い義務はありません。このようなケースでは、事前に社内規定などで費用負担の範囲を明確に定めておくことが、従業員とのトラブルを避ける上で非常に重要です。
雇入れ時健康診断の費用負担について曖昧なままにしておくと、不信感を生んだり、最悪の場合には法的な問題に発展したりする可能性もあります。費用負担のルールを明確にし、従業員に周知徹底することで、安心して健康診断を受けてもらえる環境を整えましょう。
担当者の頭痛の種 健康診断管理でよくある課題とリスク…
健康診断は従業員の健康を守り、企業の法的義務を果たす上で不可欠です。しかし、多くの人事担当者様が、その運用においてさまざまな課題に直面しているのではないでしょうか。単に法律で定められているから実施する、というだけでは、結果的に膨大な手間とコストがかかり、最悪の場合、企業が大きなリスクを負うことにもなりかねません。ここでは、人事担当者様が共感しやすい健康診断管理における「よくある課題」を3つの側面に分けて深掘りし、それらの課題を放置した場合に企業が直面するリスクについて具体的に解説していきます。
課題 1:煩雑な予約・日程調整と予約漏れ
健康診断管理において、まず最初に直面するのが「予約・日程調整」の複雑さです。特に、新卒や中途採用で年間を通して入社する従業員が多い企業様では、個々の雇入れ時健康診断の予約手配に追われがちです。全国に複数の拠点を持つ企業様の場合、それぞれの地域のクリニックと個別に連絡を取り、健診内容や料金の交渉、予約状況の確認、そして従業員への案内といった一連のプロセスを、電話やメール、FAX を駆使して手作業で行う必要があります。
こうした手作業での調整は、従業員からの希望日時を一つひとつ確認し、クリニックの空き状況と照らし合わせるという膨大な作業を生みます。予約が確定した後も、従業員への受診案内や、受診漏れを防ぐためのリマインドメールの送信など、細やかなフォローが欠かせません。この過程で、連絡の行き違いや情報の転記ミスが発生しやすく、最悪の場合、予約漏れやダブルブッキングといったヒューマンエラーにつながる可能性も高まります。
結果として、人事担当者様の業務時間の大半が予約調整に費やされ、本来注力すべき採用活動や人材育成といったコア業務に支障をきたしてしまうケースも少なくありません。特に、短期間で多くの従業員に対応する必要がある時期は、このような煩雑な予約・日程調整が大きな負担となります。
課題 2:紙の結果回収・データ入力の手間とヒューマンエラー
健康診断の実施後、人事担当者様を待ち受けるのは「結果管理」という、さらなる手間のかかる業務です。従業員から紙で提出される健康診断結果を回収し、それを Excel などの台帳に手作業で転記していくプロセスは、非常に非効率的で時間と労力を要します。数百人規模の企業であれば、何百枚もの紙の健診結果を一枚一枚確認し、数値データを入力していく作業は膨大な時間が必要です。
この手作業でのデータ入力には、ヒューマンエラーのリスクが常に伴います。例えば、血圧や血糖値などの数値の入力ミス、有所見者(異常が認められた従業員)や要再検査の従業員に対するフラグ立ての漏れなどが考えられます。これらの入力ミスは、従業員の健康状態の正確な把握を妨げるだけでなく、その後の産業医面談や就業上の措置が必要な従業員への対応遅れにもつながりかねません。
また、紙の健診結果は物理的な保管場所も必要とします。個人情報保護の観点から厳重な管理が求められるため、鍵のかかるキャビネットでのファイリングや、定期的な廃棄作業も発生します。これらの作業は、人事担当者様の時間的・精神的な負担を増大させるだけでなく、必要な情報を素早く検索・分析することを困難にし、健康経営への取り組みを阻害する要因ともなってしまうのです。
課題 3:未受診者への督促とコミュニケーションコスト
健康診断の受診率を 100%に近づけることは、従業員の健康管理だけでなく、企業の法的義務を果たす上でも極めて重要です。しかし、この「未受診者への対応」が、人事担当者様にとって大きな課題となることが多いです。業務の都合や個人の事情、あるいは単なる受診忘れなど、さまざまな理由で期限内に健康診断を受けられない従業員は必ず発生します。これらの未受診者を特定し、個別に連絡を取り、受診を促す作業は、想像以上に時間と労力がかかります。
未受診者への督促は、単に「受けてください」と伝えるだけでは終わりません。なぜ受診が必要なのかを丁寧に説明したり、受診できる医療機関の情報を提供したり、場合によっては受診日程の再調整を行ったりと、一人ひとりの状況に合わせたきめ細やかなコミュニケーションが求められます。受診を拒否する従業員に対しては、法的義務であることを根気強く伝えたり、上長を巻き込んで理解を求めたりする必要も出てきます。
このような対応は、単なる事務作業の範疇を超え、人事担当者様の精神的な負担にもつながるでしょう。
結果として、未受診者への督促と調整にかかるコミュニケーションコストは膨大になり、他の重要な業務を圧迫することになります。受診率がなかなか上がらない状況は、人事担当者様にとって大きなストレスとなり、従業員の健康を守るという本来の目的達成を困難にしてしまうのです。
リスク:実施漏れによる罰則と企業の責任問題
これまで見てきたような健康診断管理の課題を放置し、健康診断の実施漏れや不適切な運用が発生した場合、企業は多岐にわたる深刻なリスクに直面します。最も直接的なのは、労働安全衛生法違反による「罰則」です。健康診断の実施は労働安全衛生法で義務付けられており、これに違反した場合には「50 万円以下の罰金」が科される可能性があります。これは企業にとって直接的な経済的損失となります。
しかし、罰則以上の問題となり得るのは、「企業の責任問題」です。もし従業員が健康診断の未実施や結果に対する適切な措置の遅れが原因で、業務に関連する疾病を発症したり、病状が悪化したりした場合、企業は「安全配慮義務違反」を問われる可能性があります。安全配慮義務違反と判断されれば、損害賠償請求や労災認定につながる可能性があり、その経済的負担は罰金とは比較にならないほど大きくなるでしょう。
さらに、こうした問題が一度発生すれば、企業の社会的信用は大きく失墜します。
従業員からの信頼を失い、採用活動にも悪影響が出るだけでなく、取引先や顧客からの評価も低下しかねません。健康診断管理の徹底は、単なる義務の遂行ではなく、従業員を守り、企業の健全な経営を維持するための重要なリスクマネジメントであることを認識し、課題の早期解決に取り組むことが不可欠です。
【2026 年新常識】予約漏れ・管理の手間を解消する 3 つの方法
これまで健康診断の管理における課題やリスクについてお話ししてきました。ここでは、従来の非効率な管理方法から脱却し、人事担当者様の負担を劇的に軽減するための「新しい常識」として、具体的な解決策を 3 つの方法に分けてご紹介します。
「健康管理システムの導入」「予約代行サービスの活用」「社内フローの見直し」というこれらの方法を組み合わせることで、健康診断の予約漏れや煩雑な管理の手間を解消し、人事担当者様が本来注力すべき採用活動や人材育成といったコア業務に集中できる環境を構築できるでしょう。
2025 年の電子申請義務化を目前に控え、健康診断の管理体制を見直すことは、もはや避けて通れない課題です。ぜひ、自社に最適な方法を見つけ、効率的で効果的な健康診断管理を実現するための第一歩を踏み出してください。
方法 1:健康管理システムを導入し業務を自動化する
健康診断の管理における最も抜本的な解決策として挙げられるのが「健康管理システム」の導入です。これは、健康診断の予約受付、従業員への受診案内とリマインド、健診結果の回収とデータ入力、そしてデータ管理といった一連の業務プロセスをデジタルで一元化し、自動化するための最も効果的な手段となります。
Excel や紙媒体での手作業による管理から脱却し、健康管理システムを活用することで、業務効率は飛躍的に向上します。人事担当者様は、これまで膨大な時間を費やしていた事務作業から解放され、より戦略的な人事施策に時間を割けるようになるでしょう。
システムの導入は初期投資が必要となりますが、長期的に見ればヒューマンエラーの削減、法令遵守体制の強化、そして従業員の健康増進を通じた生産性向上といった多岐にわたるメリットをもたらします。
予約から結果管理まで一元化できるメリット
健康管理システムを導入することで、人事担当者様は以下のような具体的なメリットを享受できます。
- 従業員自身によるオンライン予約が可能となり、日程調整の手間が大幅に削減されます。
- 未受診者への自動リマインドメール送信機能により、個別の督促業務が不要となり、受診率向上が期待できます。
- 健診結果のデータでの自動取り込みや一元管理が可能になり、紙媒体でのファイリングや手作業でのデータ入力が不要になります。
- 有所見者の自動リストアップ機能により、再検査や精密検査が必要な従業員を迅速に特定し、産業医との連携をスムーズに行えます。
- 労働基準監督署へ提出する定期健康診断結果報告書や、ストレスチェック結果報告書などの作成補助機能により、書類作成の負担が軽減されます。
- 健診結果データを分析することで、部署ごとや年齢層ごとの健康課題を可視化し、健康経営の推進に役立てられます。
これらの機能によって、人事担当者様が健康診断の管理に費やしていた膨大な時間が削減され、ヒューマンエラーのリスクも低減されるため、本来の業務に集中できるようになるでしょう。
システム選定のポイント(連携機能・サポート体制・費用)
実際に健康管理システムを導入する際には、いくつかの選定ポイントを慎重に検討する必要があります。まず 1 つ目は「連携機能」です。
既存の人事労務システムや給与計算ソフト、ストレスチェックシステムなどと API や CSV ファイルでデータ連携できるかは非常に重要です。これにより、従業員情報の二重入力の手間を省き、より効率的なデータ活用が可能になります。次に 2 つ目は「サポート体制」です。
システムの導入は新たな業務フローの構築を伴うため、導入時の設定支援や、運用開始後の問い合わせに迅速に対応してくれるベンダーのサポート体制は欠かせません。
トラブル発生時や操作に迷った際に、頼りになるサポートがあるかを確認しましょう。
最後に 3 つ目は「費用」です。
初期費用だけでなく、月額利用料、従業員数に応じた料金体系などを複数のシステムで比較検討する必要があります。自社の規模や予算、そして解決したい具体的な課題に合致した機能と費用感のバランスが良いシステムを選ぶことが、失敗しないシステム選定の鍵となります。
方法 2:健康診断の予約代行サービスを活用する
健康管理システムの全面的な導入が難しい場合や、特に健康診断の予約業務に大きな負担を感じている企業様にとって有効な選択肢となるのが「健康診断の予約代行サービス」です。このサービスは、健康診断の受診施設探し、予約日程の調整、受診の案内といった煩雑な業務を専門の業者にアウトソーシングするものです。
人事担当者様は、従業員リストや希望する健診項目をサービス提供会社に伝えるだけで、その後のクリニックとのやり取りや予約手続きは代行してもらえるため、大幅な工数削減が見込めます。特に、全国に拠点を持つ企業や、従業員数が多く個別の予約調整が大変な企業にとって、非常に有効な手段と言えるでしょう。
人事担当者の工数を大幅に削減できるケース
健康診断の予約代行サービスは、特に以下のような企業で人事担当者様の工数を大幅に削減し、業務効率を向上させる効果が期待できます。
- 全国に支社や営業所が点在しており、各地の従業員が受診できるクリニックを探し、個別に予約を取るのが大変なケース。
- 従業員数が数百人規模以上で、各従業員の希望日時や受診科目を個別に調整する業務が膨大になりがちなケース。
- 中途採用活動が活発で、不定期に入社する中途社員の雇入れ時健康診断の手配が頻繁に発生し、その都度クリニックを探す手間がかかるケース。
- 人事担当者が他の業務と兼任しており、健康診断の手配に十分な時間を割けないケース。
- 特定の地域に受診可能な医療機関が少なく、クリニックとの交渉や調整に時間がかかるケース。
これらのケースに当てはまる企業様は、予約代行サービスを導入することで、人事担当者様の負担を大きく軽減し、より重要な業務に集中できる環境を整えられるでしょう。
サービス内容と選び方の注意点
予約代行サービスを選ぶ際には、単に「予約してくれる」という点だけでなく、サービス内容の詳細をしっかりと確認することが重要です。
例えば、予約だけでなく、クリニックへの支払い代行、健診結果の回収代行、データ化まで含めて対応してくれるのかどうか。サービス範囲が広いほど、人事担当者様の負担は軽減されます。また、提携しているクリニックの数や、全国的なカバー率も確認ポイントです。従業員が居住地や勤務地近くで受診できる選択肢が十分にあるかを確認しましょう。
料金体系も比較検討が必要です。成果報酬型なのか、月額固定費なのか、従業員数に応じた従量課金制なのかなど、自社の予算とニーズに合ったプランを選びましょう。
さらに、個人情報を取り扱うため、サービスのセキュリティ体制が強固であるかどうかも重要な選定基準となります。
複数のサービスを比較検討し、自社の課題解決に最も適した代行サービスを選ぶことが、導入成功の鍵となります。
方法 3:社内フローを見直し、標準化する
システムや外部サービスを導入する・しないに関わらず、すべての企業が健康診断管理において取り組むべき基本的な改善策が「社内フローの見直しと標準化」です。
これは、コストをかけずにすぐに始められる対策であり、業務の属人化を防ぎ、仮に担当者が変わったとしても、誰が担当しても一定の品質で健康診断業務を遂行できるようするための土台作りとなります。明確なフローを確立することで、ヒューマンエラーのリスクを低減し、業務の透明性を高めることにもつながります。
健康診断の準備から実施、結果の管理、そして事後措置に至るまでの一連のプロセスを棚卸しし、無駄な作業をなくし、効率的な流れを構築することが重要です。
案内テンプレートの活用とマニュアル化
社内フローを見直す具体的なアクションとして、まず「案内テンプレートの活用」が挙げられます。
従業員へ健康診断の受診を促す案内メールや、社内掲示用の文書について、目的、受診期間、予約方法、注意事項、問い合わせ先などを記載したテンプレートを事前に作成しておくことで、案内の抜け漏れを防ぎ、作成時間を大幅に短縮できます。これにより、従業員も常に正確で統一された情報を得られるため、問い合わせ対応の削減にもつながるでしょう。
さらに、健康診断に関する一連の業務手順を「マニュアル化」することの重要性も忘れてはなりません。
どのクリニックに依頼するか、予約方法、受診者のリスト作成手順、結果の受け取り方、産業医との連携方法、労働基準監督署への報告書の作成手順など、細部にわたる業務プロセスを明確なマニュアルとして整備することで、担当者が変わってもスムーズに業務を引き継ぐことが可能になります。これにより、業務の属人化を防ぎ、常に安定した品質で健康診断業務を遂行できる体制を築くことができます。
複数クリニックとの提携による選択肢の確保
社内フロー見直しにおけるもう一つの具体的なアクションとして、「複数クリニックとの提携」を提案します。
特定のクリニック一つに依存するのではなく、勤務地の近くや従業員の自宅近くなど、従業員が受診しやすいように複数の選択肢を提供することは、受診率向上にもつながります。事前に複数のクリニックと提携し、それぞれのクリニックで提供される健診項目、料金、予約フローなどを標準化しておくことで、従業員の利便性を向上させると同時に、人事担当者様が都度クリニックと交渉する手間を削減できます。
また、万が一、特定のクリニックの予約が取りにくい場合や、突発的な事情で受診場所を変更する必要が生じた際にも、複数の選択肢があれば柔軟に対応できます。提携クリニックの選定にあたっては、健診項目の充実度、施設の清潔さ、スタッフの対応、アクセス、そして企業のニーズに合わせた柔軟な対応が可能かといった点を総合的に評価することが大切です。
これにより、従業員は自分にとって最適な環境で健康診断を受けられるようになり、企業側もより効率的かつ円滑に健康診断を実施できるようになります。
健康診断結果の管理と活用法|義務から価値ある投資へ
健康診断は、法律で定められた企業の義務であるだけでなく、従業員の健康を守り、ひいては企業の成長を支える「価値ある投資」と捉えることができます。2025 年からの電子申請義務化をきっかけに、健康診断の結果データを適切に管理し、それを従業員の健康維持・増進、さらには企業の生産性向上に結びつける具体的な方法についてご紹介します。
2025 年からの電子申請義務化に備えるデータ管理体制
2025 年 1 月からは、常時 50 人以上の労働者を使用する事業場に対して、健康診断結果報告書の電子申請が義務化されます。この法改正は、企業が健康診断結果をデータとして管理・保有することを実質的に求めるものであり、従来の紙や Excel に頼った管理では対応が困難になることを意味します。
この義務化を機に、企業は紙ベースや分散した Excel データでの管理から脱却し、セキュリティが確保された環境で、必要な情報を迅速に引き出せるデータ管理体制への移行が急務となります。これにより、報告義務の遵守はもちろんのこと、従業員の健康情報をより効果的に活用できる基盤が整います。
健診結果の適切な保管と個人情報保護の注意点
健康診断結果は、個人の健康状態という非常に機微な情報であり、「要配慮個人情報」に該当します。そのため、その取り扱いには個人情報保護法に基づく厳格な注意が必要です。保管期間は原則として 5 年間と定められており、アクセス権限は必要最小限の担当者に限定し、目的外利用は固く禁じなければなりません。
また、不要になったデータの安全な廃棄方法についても明確なルールを設ける必要があります。健康管理システムの導入は、これらのセキュリティ要件を満たし、個人情報を安全かつ適切に管理する上で非常に有効な手段です。システム上でアクセス履歴を管理したり、自動的に保存期間に応じた処理を行ったりすることで、人為的なミスや情報漏洩のリスクを大幅に軽減できます。
産業医との連携と事後措置(就業上の措置)の重要性
健康診断は、受診して終わりではありません。重要なのは、その結果をいかに従業員の健康維持に役立てるかです。特に、健康診断で「異常の所見」が見つかった従業員については、その結果を産業医に確認してもらい、必要に応じて就業上の措置を講じることが企業に義務付けられています。
就業上の措置とは、時間外労働の制限、作業内容の変更、配置転換、休業など、従業員の健康状態に合わせて労働環境や業務内容を調整することです。健診結果を放置せず、速やかに産業医と連携し、従業員の健康を守るための具体的なアクションにつなげるフローを確立することは、法的義務であるだけでなく、従業員の安心と信頼を築く上で不可欠です。
健康経営への第一歩としてのデータ活用事例
健康診断によって収集・一元管理されたデータは、単なる義務の履行に留まらず、企業の「健康経営」推進に向けた貴重な財産となります。例えば、以下のような活用が考えられます。
- 部署ごとや年代ごとに健診結果を集計・分析し、特定の部署で喫煙率が高い、若年層で肥満傾向があるなど、従業員全体の健康課題を可視化します。これにより、具体的な健康増進プログラム(例:禁煙セミナー、運動習慣啓発、食事改善指導など)を企画・実施できます。
- ストレスチェックの結果と健康診断データを連携させることで、メンタルヘルス不調のリスクが高い部署や個人を早期に特定し、職場環境の改善や個別カウンセリングなどの支援につなげることができます。
- 特定の疾患リスクが高い従業員に対して、早期受診や専門医への紹介を促す個別のアドバイスを提供することで、重症化予防や休職期間の短縮に貢献できます。
これらの取り組みは、従業員の健康意識を高め、活力ある職場づくりを促進し、結果として企業の生産性向上と持続的な成長に寄与します。
まとめ:効率的な健康診断管理で、従業員と会社を守る未来へ
この記事では、企業の健康診断管理が人事担当者の方々にとって大きな負担となっている現状を深く掘り下げてきました。煩雑な予約調整、Excel での手作業によるデータ入力、未受診者への督促など、多くの「あるある」に共感された方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、こうした非効率な管理方法は、もはや過去の常識となりつつあります。
これからの時代に求められる「新しい健康診断管理の常識」は、健康管理システムの導入、予約代行サービスの活用、そして社内フローの見直しと標準化といった具体的な方法によって実現できます。これらを組み合わせることで、これまで膨大な時間を要していた業務は劇的に効率化され、人事担当者の皆さまは本来注力すべきコア業務へと時間とリソースを振り向けることが可能になります。
健康診断管理の効率化は、単なる業務改善に留まりません。実施漏れによる法的リスクを回避し、従業員一人ひとりの健康と安心を確保することは、企業の安全配慮義務を果たす上で不可欠です。さらに、健康診断から得られるデータを積極的に活用することで、従業員の健康増進、ひいては企業の生産性向上と持続的な成長へと繋がる「未来への投資」となります。ぜひ、本記事でご紹介した新しい常識を参考に、貴社の健康診断管理をアップデートし、従業員と会社を守る未来へと力強い一歩を踏み出してください。
――――――――――――――――――
■ 健康診断の運用・導入をご検討の企業様へ
企業の健康診断の実施や管理を、よりスムーズに進めたいとお考えの方は、
以下のページもぜひご覧ください。
・健康診断の詳細についてはこちら
・サービス内容やご相談・お問い合わせはこちら
執筆者
医療法人社団クリノヴェイション理事長
内藤 祥
経歴
北里大学医学部卒
沖縄県立中部病院で救急医療、総合診療をトレーニング
沖縄県立西表西部診療所で離島医療を実践
専門は総合診療
資格
日本プライマリ・ケア連合会認定 家庭医療専門医・指導医
日本内科学会 認定医
日本医師会 認定産業医
日本旅行医学会 認定医
日本渡航医学会 専門医療職





