この記事では、高い致死率を持つ危険な感染症である「エボラ出血熱」について、その概要から具体的な症状、感染経路、そして最も重要な予防法と対策まで、専門的な視点から網羅的に解説していきます。特に、海外渡航の機会が多いビジネスパーソンの方々が、ご自身とご家族、そして会社を守るために必要な知識を身につけ、冷静かつ的確な判断ができるようになることを目指します。この情報を通じて、エボラ出血熱への理解を深め、不確実な情報に惑わされることなく、確実な行動へとつなげてください。
はじめに:エボラ出血熱とは?致死率の高い危険な感染症
エボラ出血熱とは、エボラウイルスによって引き起こされる重篤な感染症です。正式には「エボラウイルス病」と呼ばれており、過去の流行では致死率が25%から90%と非常に高く、感染すると命にかかわる危険性が高いことで知られています。この極めて高い致死率が、エボラ出血熱が世界的に恐れられる最大の理由の一つです。
この感染症は、アフリカ大陸の一部地域で繰り返し発生しており、特に医療体制が脆弱な地域での流行は、社会全体に壊滅的な影響を及ぼしてきました。一度流行が始まると、その拡大を食い止めることが非常に困難であり、国際的な公衆衛生上の脅威として常に警戒されています。この背景には、ウイルス自体の強力な病原性に加え、地域社会の文化や生活習慣が複雑に絡み合っている実情があります。
エボラ出血熱は、単なる地方病として片付けられるものではなく、人々の移動が活発な現代社会においては、どの国にとっても無関係ではありません。特に海外出張などで感染リスクの高い地域へ渡航する可能性のある方にとって、この病気の正しい知識と予防策を身につけることは、ご自身や大切な人を守る上で不可欠なものとなります。
エボラ出血熱の正体|ウイルスの特徴と感染症法上の位置づけ
このセクションでは、エボラ出血熱を引き起こすエボラウイルスの具体的な特徴と、日本の法律においてどのように位置づけられているのかを詳しく解説します。まずウイルスの生物学的な側面、次に感染症法上の分類、そしてこれまでの流行の歴史を順に見ていきましょう。
原因となるエボラウイルスとは
エボラ出血熱は、エボラウイルスというウイルスが原因で発症する感染症です。このウイルスは「フィロウイルス科」に属するRNAウイルスの一種で、特徴的な棒状やU字型の形をしています。1976年に中央アフリカで初めてその存在が確認されて以来、人体に深刻な影響を及ぼす非常に危険な病原体として知られています。
エボラウイルスが人体に侵入すると、主に免疫細胞や血管の内皮細胞に感染し、それらの細胞を破壊することで体の防御機能を低下させます。これにより、全身の炎症反応が引き起こされ、最終的には血管透過性の亢進による出血傾向や多臓器不全へとつながるのです。感染初期にはインフルエンザに似た症状が続くため、診断が遅れることも少なくありません。
感染症法における「一類感染症」とは
エボラ出血熱は、日本の「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」、通称「感染症法」において、最も危険度が高い「一類感染症」に分類されています。この「一類感染症」とは、「感染力、罹患した場合の重篤性等に基づく総合的な観点からみた危険性が極めて高い感染症」と定義されており、エボラ出血熱の他にも、クリミア・コンゴ出血熱、マールブルグ病、ラッサ熱、南米出血熱、ペスト、痘瘡(天然痘)などが指定されています。
一類感染症に指定されると、国や地方自治体は非常に強力な措置を講じることができます。例えば、患者さんに対して強制的な入院勧告や、場合によっては交通の制限、例えば公共交通機関の利用停止や移動の制限を行うことが可能です。これは、この病気が社会全体に与える影響が甚大であると認識されているためで、万が一国内で発生した場合でも、最大限の手段を用いて感染拡大を食い止めようという国の強い姿勢の表れと言えるでしょう。
この分類から、エボラ出血熱がいかに重大な脅威として捉えられ、それに対して日本が厳格な対策体制を敷いているかが分かります。私たちの生活を守るために、国が用意している仕組みを理解することは、冷静な対応を考える上でとても大切です。
過去の主な流行地域と歴史
エボラ出血熱は、1976年に現在のコンゴ民主共和国と南スーダンで初めて確認されて以来、主にアフリカ大陸の中央部で散発的な流行を繰り返してきました。特に、人里離れた地域や医療体制が不十分な地域で発生することが多く、その都度、多くの犠牲者を出しています。
この感染症が世界的に注目され、国際的な公衆衛生上の脅威として広く認識されるようになったのは、2014年から2016年にかけて西アフリカで発生した史上最大の大流行がきっかけです。この流行では、ギニア、シエラレオネ、リベリアの3カ国を中心に2万8千人以上が感染し、1万1千人以上が死亡するという未曽有の事態となりました。これにより、国際社会全体でエボラ出血熱への対策が強化されることになったのです。
近年では、2018年以降、再びコンゴ民主共和国で複数の大規模な流行が発生しており、2019年には世界保健機関(WHO)が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言するなど、現代においても依然として継続的な問題であり続けています。これらの歴史は、エボラ出血熱が特定の地域に限定されるものではなく、常に警戒が必要な感染症であることを示しています。
症状と経過|潜伏期間から重症化まで
エボラ出血熱は、感染してから症状が現れ、重症化するまでのプロセスが非常に重要です。このセクションでは、エボラウイルスに感染した際の潜伏期間から初期症状、そして病状が進行した場合の重篤な症状までを時系列に沿って詳しく解説していきます。適切な知識を持つことで、もしもの時に冷静に対応できるようになります。
潜伏期間:平均4~10日
エボラウイルスに感染してから症状が現れるまでの期間を「潜伏期間」と呼びます。この期間は個人差がありますが、一般的には2日から21日とされています。しかし、平均的には4日から10日で発症することが多いです。
潜伏期間中は自覚症状がなく、体調に変化は現れません。この無症状の期間には、他人への感染力もないとされています。そのため、エボラ出血熱の流行地域から帰国された方々が、なぜ最大21日間もの健康観察を求められるのか、その根拠はこの潜伏期間にあるのです。この期間に発熱などの症状がないことを確認することで、感染の可能性を排除し、安全を確保しています。
初期症状:風邪に似た発熱や頭痛
潜伏期間を経てエボラ出血熱が発症すると、まず初期症状が現れます。これらの初期症状は、突然の高熱(38.5℃以上)を伴うことが多く、激しい頭痛、筋肉痛、全身の倦怠感などが特徴です。これらの症状は、インフルエンザや一般的な風邪と非常によく似ているため、エボラ出血熱の流行地域への渡航歴がない場合には、区別がつきにくいことがあります。
そのため、流行地域への渡航歴がある方がこれらの初期症状を自覚した場合には、その情報を速やかに医療機関や保健所に伝えることが極めて重要になります。これにより、適切な診断と隔離措置が迅速に行われ、感染拡大の防止につながります。
重症化した場合の症状:出血、意識障害など
病状が進行し、エボラ出血熱が重症化した場合、初期症状に加えて非常に特徴的で生命を脅かす症状が現れるようになります。病名にある「出血熱」の由来ともなっている出血傾向は、その一つです。具体的には、吐血や下血、歯茎からの出血、皮膚からの出血斑などが報告されます。ただし、全ての患者に出血症状が見られるわけではないことを理解しておく必要があります。
出血傾向の他にも、多臓器不全(腎臓や肝臓などの機能が低下すること)、全身のショック状態、意識障害、けいれんといった深刻な症状が見られます。これらの症状は、体のあらゆる機能がウイルスの影響で深刻なダメージを受けていることを示しており、適切な治療が施されなければ、残念ながら命に関わる危険性が非常に高くなります。この重篤な症状こそが、エボラ出血熱が致死率の高い非常に危険な感染症とされる理由です。
感染経路|何を通じてうつるのか?
エボラ出血熱は、その高い致死率から非常に恐ろしい感染症として認識されていますが、感染経路を正しく理解することで、過度な不安を解消し、効果的な予防策を講じることができます。このセクションでは、エボラウイルスがどのようにして人から人へ、あるいは動物から人へと広がるのか、その感染経路について詳しく解説します。正確な知識は、私たち自身と大切な人を守るための第一歩となるでしょう。
主な感染経路は患者の体液との「接触感染」
エボラ出血熱の最も主要な感染経路は「接触感染」です。これは、エボラ出血熱の患者さんの血液、汗、唾液、吐瀉物、排泄物などの体液、あるいはそれらの体液で汚染された注射針、衣服、寝具などの物品に、健康な人の傷のある皮膚や粘膜(目、鼻、口など)が直接触れることで感染することを意味します。特に、医療現場や、患者さんの看護にあたる家族の間で感染が広がりやすいのはこのためです。
また、発症前の潜伏期間にある人は無症状であるため感染力はないとされていますが、一度発症してウイルス量が増加すると感染性が高まります。さらに、エボラウイルスは患者さんが回復した後も、精液中から長期間検出されることがあるため、回復後の性行為による感染リスクも考慮する必要がある点も重要です。
【重要】空気感染はしない
エボラ出血熱に関して、多くの方が抱く誤解の一つに「空気感染するのではないか」という不安があります。しかし、エボラウイルスは空気感染しません。インフルエンザのように、感染者が咳やくしゃみをした際に飛沫が空気中に漂い、それを吸い込むことで感染するという経路は、エボラウイルスには当てはまらないのです。
このため、エボラ出血熱の患者さんと単に同じ空間にいるだけ、あるいは日常生活における偶発的な接触だけで感染するリスクは極めて低いと言えます。この事実は、不必要なパニックや差別を防ぐ上でも非常に重要です。エボラウイルスは非常に危険なウイルスですが、その感染経路は限定的であることを理解し、冷静に対応することが求められます。
野生動物からの感染リスク
エボラウイルスは、自然界では主にオオコウモリが自然宿主と考えられています。人への感染は、この自然宿主であるコウモリや、エボラウイルスに感染したサル、チンパンジー、アンテロープなどの野生動物と接触することで起こることがあります。特に流行地域においては、これらの野生動物の死体に直接触れたり、十分な加熱をせずに「ブッシュミート」と呼ばれる野生動物の肉を食べたりすることが感染リスクを高める原因となります。
したがって、流行地域に渡航する際には、野生動物との接触を避けることが非常に重要です。具体的には、野生動物の死体には絶対に触れない、ブッシュミートは口にしない、そしてコウモリが生息しているとされる洞窟などへの立ち入りも避けるべきです。これらの行動は、人への感染の連鎖を断ち切るために不可欠な予防策となります。
予防法と対策|自分と家族を守るためにできること
このセクションでは、エボラ出血熱からご自身と大切なご家族を守るための具体的な予防法と対策を詳しく解説します。海外出張などで感染リスクのある地域に渡航する可能性があるビジネスパーソンが、実際に日々の生活や業務で実践できる行動に焦点を当ててご紹介していきます。正しい知識に基づいた行動は、不必要な不安を減らし、いざという時の冷静な判断につながります。
基本的な予防策:手洗いと衛生管理
エボラ出血熱の予防において、最も基本的でありながら非常に効果的なのが手洗いと徹底した衛生管理です。石鹸と水を使った正しい手洗いを、外出から戻った時、人との接触後、そして食事の前後には必ず行うようにしましょう。約30秒かけて指の間や爪の先まで丁寧に洗い流すことが重要です。石鹸と水がすぐに利用できない環境にいる場合は、アルコールベースの手指消毒剤を使用することも有効です。流行地域においては、こまめな手指衛生を心がけることで、感染リスクを大幅に低減させることができます。
流行地域へ渡航する場合の注意点
海外出張などで、エボラ出血熱の流行地域またはその周辺にやむを得ず渡航する必要がある場合は、ご自身と周囲の安全を確保するために、以下の点に細心の注意を払い、具体的な行動を実践してください。まず、外務省の海外安全情報や世界保健機関(WHO)などの公的機関が発信する最新情報を常に確認し、現地の状況を客観的に把握しましょう。
現地での行動においては、エボラ出血熱の患者やその疑いがある人、亡くなった方には絶対に触れないでください。また、感染源となりうる野生動物の肉(ブッシュミート)を食べたり、生きた動物や死体に触れたりすることも避ける必要があります。医療機関を受診する際は、事前に衛生管理が徹底されているかを確認し、信頼できる医療機関を選びましょう。現地滞在中に体調不良を感じた場合は、すぐに現地の日本大使館または指定された医療機関に連絡し、指示に従ってください。
これらの行動指針は、ご自身の健康を守るだけでなく、万が一の際に感染の拡大を防ぎ、周囲の人々を守るためにも不可欠です。事前の準備と現地での冷静な判断が、安全な渡航と帰国を実現する鍵となります。
エボラ出血熱のワクチンと治療薬の現状
かつてエボラ出血熱には有効なワクチンや治療薬が存在せず、対症療法が中心でした。しかし、近年の医学の進歩により状況は大きく変わっています。現在では、エボラ出血熱に対する複数のワクチンが開発され、一部は承認・使用されています。特に「rVSV-ZEBOV」というワクチンは、流行地域での使用が認められ、高い予防効果が期待されています。また、モノクローナル抗体カクテル療法などの治療薬も開発され、早期に投与することで致死率を大幅に低減できることが報告されています。
これらの画期的な進歩は、エボラ出血熱との闘いにおいて大きな希望をもたらしていますが、課題も残されています。現状では、これらのワクチンや治療薬が日本国内で一般的に利用できる状況にはありません。また、流行地域においても、その供給は限定的である場合が多く、全ての患者やリスクのある人々が確実にアクセスできるわけではないという現実があります。そのため、過度な期待を抱くのではなく、あくまで基本的な予防策を徹底し、公衆衛生当局の最新情報に注意を払うことが最も重要です。
感染が疑われる場合の検査と治療
万が一、エボラ出血熱への感染が疑われた場合、どのような検査が行われ、どのような治療が施されるのかは、多くの方が抱く疑問点かと思います。このセクションでは、感染が疑われた際の診断から治療に至るまでのプロセスを詳しく解説します。迅速な診断と、それに基づく適切な医療介入がいかに重要であるかを理解していただくことで、万が一の事態にも冷静に対応できるようになることを目指します。
どのように診断されるのか?(検査方法)
エボラ出血熱の確定診断に至るためには、非常に厳格な手順と専門的な検査が必要です。まず、感染が疑われる患者さんに対しては、問診が極めて重要になります。特に、過去21日以内の流行地域への渡航歴や、エボラ出血熱患者との接触歴の有無を詳細に確認します。これは、初期症状がインフルエンザなどと似ているため、流行地域への渡航歴が診断の大きな手がかりとなるからです。
問診で感染の可能性が疑われた場合、血液や体液(咽頭拭い液、尿など)を検体として採取し、ウイルス遺伝子を検出する「PCR検査」が主な診断方法となります。このPCR検査は、ウイルスの存在を直接的に確認できるため、最も信頼性の高い診断法とされています。
これらの検査は、ウイルスが非常に危険であるため、厳格なバイオセーフティレベルが求められる専門の検査機関、具体的には国立感染症研究所などの限られた施設で行われます。検査検体の採取から輸送、そして検査の実施に至るまで、感染拡大を防ぐための徹底した安全管理体制の下で進められます。
確立された治療法はなく対症療法が中心
エボラ出血熱の治療において、特異的な治療薬の開発は進んでいますが、依然として治療の基本方針は、患者さんの免疫力がウイルスに打ち勝つのを助けるための「対症療法」が中心となります。これは、ウイルスそのものを直接的に排除する治療法がまだ完全に確立されていないためです。
対症療法とは、発熱、脱水、出血などの現れている症状に対して、それぞれ適切な処置を行うことです。具体的には、ウイルス感染によって引き起こされる脱水症状を防ぐための水分・電解質の補給、血圧の維持、呼吸管理、そしてウイルス感染によって免疫力が低下した際に起こりやすい二次的な細菌感染に対する抗菌薬の投与などが挙げられます。これらの処置により、患者さんの全身状態を安定させ、体力の消耗を最小限に抑えることで、自己の免疫力による回復を最大限にサポートします。
近年では、抗体カクテル療法などの新しい治療薬も承認され、流行地域での使用が期待されています。しかし、これらの薬剤が日本国内で即座に利用できるわけではないこと、また供給量も限られている場合があるため、現状では患者さんの症状をきめ細やかに管理する対症療法が治療の根幹であることを理解しておく必要があります。
日本国内のリスクと国の対策
このセクションでは、エボラ出血熱が日本国内でどのようなリスクを持つのか、そして国がその脅威にどのように備えているのかを詳しく解説します。日本での大規模な流行の可能性は低いと考えられていますが、万が一の事態に備え、高度な公衆衛生システムと厳格な水際対策が講じられています。これらの対策を理解することで、皆様がエボラ出血熱に対する正確な知識と安心感を得られることを目指します。
日本で流行する可能性は極めて低い
日本国内でエボラ出血熱が大規模に流行する可能性は、現在のところ極めて低いと考えられます。その主な理由として、以下の点が挙げられます。
まず、エボラウイルスは主に患者の血液や体液との直接接触によって感染する「接触感染」が主であり、インフルエンザのように空気中を漂う飛沫を吸い込むことによる「空気感染」はしません。そのため、感染が限定的になりやすく、爆発的な感染拡大は起こりにくいという特性があります。
次に、エボラウイルスの自然宿主と考えられているオオコウモリなどの動物が、日本国内には生息していません。感染源となる動物が国内にいないため、自然界からのウイルス持ち込みリスクが極めて低いことも、日本での流行を防ぐ大きな要因です。
さらに、日本は世界的に見ても非常に高いレベルの公衆衛生システムと、空港や港での厳格な水際対策が機能しています。海外で感染した方が日本に入国しようとした場合でも、検疫体制や医療機関との連携により、早期発見・早期隔離・適切な治療が可能な体制が整っているため、国内での感染拡大を防ぐことができます。これらの複合的な要因により、日本国内でのエボラ出血熱の流行リスクは低いと判断されています。
日本の水際対策(検疫)と医療体制
日本は、エボラ出血熱のような国際的な感染症の侵入を防ぐため、空港や港における「水際対策」を厳重に行っています。主要な国際空港や港では、流行地域からの入国者に対し、健康状態に関する質問票への記入を求めたり、サーモグラフィーを用いた体温測定で発熱がないかを確認したりしています。これは、発熱などの症状を持つ人を早期に発見し、感染拡大のリスクを最小限に抑えるための重要な措置です。
万が一、検疫においてエボラ出血熱への感染が疑われる症状を持つ方が発見された場合には、速やかに隔離され、事前に指定された専門の医療機関へと搬送される体制が整っています。この一連の流れは、感染症の専門家や医療機関、行政機関が密接に連携することで機能しており、海外からウイルスが持ち込まれた際でも、国内で感染が広がることを防ぐための強力なセーフティネットとなっています。
感染症指定医療機関とは
エボラ出血熱のような危険度の高い感染症の患者さんを受け入れ、安全かつ確実に治療を行うために、日本には「感染症指定医療機関」という特別な病院が全国に整備されています。これらの医療機関は、一般的な病院とは異なり、感染症の患者さんを隔離して治療するための特別な設備を持っています。例えば、ウイルスが外に漏れないように圧力を調整する「陰圧室」や、感染性の高い検体を安全に取り扱うための検査設備などが備えられています。
さらに、感染症指定医療機関では、エボラ出血熱のような稀な、しかし重篤な感染症に対して専門的な知識と経験を持つ医師や看護師、その他医療スタッフが常駐しており、高度な感染対策を講じながら治療にあたります。このような体制が全国に構築されていることで、万が一国内でエボラ出血熱の患者さんが発生した場合でも、迅速かつ適切な医療を提供し、国内でのさらなる感染拡大を防ぐための「最後の砦」として機能しています。この指定医療機関の存在は、国民の皆様の安心を守る上で非常に重要な役割を担っています。
流行地域から帰国後に体調不良を感じたら?
エボラ出血熱の流行地域から帰国された方が、万が一発熱や倦怠感など体調不良を感じた場合は、速やかに行動することが非常に重要です。しかし、一般的な風邪やインフルエンザの場合とは異なり、正しい手順を踏む必要があります。
まず、絶対に直接医療機関を受診しないでください。これは、万が一エボラ出血熱に感染していた場合に、他の患者さんや医療従事者にウイルスを広げてしまうリスクがあるためです。ご自身の体調が悪くても、医療機関へは向かわず、ご自宅で待機してください。
次に、最寄りの保健所、または検疫所に電話で連絡をしてください。この際、いつ、どの国に渡航していたのか、どのような症状があるのかを正確に伝えてください。保健所や検疫所の担当者が、今後の医療機関への受診方法や、ご家族を含めた周囲の方への感染対策について、具体的な指示をしてくれます。
この手順を守ることは、ご自身の適切な診断と治療に繋がるだけでなく、社会全体での感染拡大を防ぐための責任ある行動となります。冷静に行動し、専門機関の指示に従うことが、ご自身と周囲の人々の安全を守る上で最も大切なことです。
エボラ出血熱に関するQ&A
ここまで、エボラ出血熱の基礎知識から感染経路、予防法、日本の対策について解説してきました。このセクションでは、皆さんが特に抱きやすい具体的な疑問にQ&A形式でお答えします。特に、海外渡航の機会が多いビジネスパーソンの方々が直面しがちな、現実的な不安や疑問に寄り添い、冷静な判断と行動に繋がる情報を提供します。
Q1.どのくらいの確率で死亡するのですか?
エボラ出血熱の致死率は、過去の流行において、ウイルスの型や流行した地域の医療体制の状況によって大きく変動してきました。具体的には、25%から90%と非常に幅があることが報告されています。
この致死率の大きな差は、早期に適切な医療介入が受けられるかどうかによって大きく左右されます。例えば、高度な医療設備と訓練された医療スタッフがいる環境であれば、脱水症状の補液や対症療法を迅速に行うことで、患者さんの救命率を向上させることが可能です。そのため、感染が疑われた場合には、早期に医療機関に連絡し、適切な治療を受けることが極めて重要になります。
Q2.会社から流行地域への出張を指示されました。どうすればよいですか?
会社からエボラ出血熱の流行地域への出張を指示された場合、ご自身の安全はもちろん、ご家族や会社の同僚への影響も考慮し、慎重に対応する必要があります。まず、外務省が発信する海外安全情報(危険情報レベル)を必ず確認し、現地の状況を客観的に評価してください。危険レベルが高い地域への渡航は、極力避けるべきだと考えられます。
次に、会社に対して、その渡航の必要性や代替手段(例えば、オンライン会議での対応など)について再検討を促すよう、状況を説明してください。渡航が避けられないと判断された場合は、会社の安全配慮義務として、現地での行動制限、緊急連絡体制、万が一に備えた医療保険、そして避難計画など、どのような安全対策が用意されているのかを具体的に確認し、書面で取り交わしておくことを強くお勧めします。
最終的な判断は個人のものですが、会社組織としてリスクを評価し、対応策を講じるプロセスを構築することが重要です。これにより、個人だけでなく会社全体として、リスク管理と従業員の安全確保に対する意識を高めることができます。ご自身の安全と、周囲の安心のために、積極的に情報を収集し、会社と十分にコミュニケーションを取るようにしてください。
Q3.流行地域から帰国後、どのくらいの期間注意が必要ですか?
エボラ出血熱の潜伏期間は、感染から発症まで最短で2日、最長で21日間とされています。このため、流行地域から帰国された場合は、最大潜伏期間である「21日間」はご自身の健康状態に特に注意を払っていただく必要があります。この期間中は、特に発熱(38.5℃以上)の有無や、頭痛、筋肉痛などの体調変化に敏感になってください。
もし、この21日間のうちに体調不良、特に発熱などの症状が現れた場合は、絶対に直接医療機関へ行かずに、まずは最寄りの保健所または検疫所に必ず電話で連絡をしてください。電話では、いつ、どの国に渡航していたのかを正確に伝え、指示に従ってください。この手順を守ることが、ご自身の適切な治療につながるだけでなく、万が一の際の感染拡大を防ぐための社会的な責任でもありますので、ご協力をお願いいたします。
まとめ:正しい知識を持ち、冷静な対応を
エボラ出血熱は、その高い致死率から非常に恐ろしい感染症として知られていますが、正しい知識と冷静な判断があれば、過度な不安を抱く必要はありません。この記事を通じて、エボラ出血熱の感染経路は限定されており、空気感染はしないこと、そして個人で実践できる予防策が多く存在することをご理解いただけたのではないでしょうか。
不確かな情報に惑わされることなく、常に外務省や厚生労働省などの公的機関が発信する最新の情報に基づいて行動することが何よりも重要です。特に海外渡航の多いビジネスパーソンの方々には、渡航先の感染症リスクを事前に確認し、具体的な予防策を講じることはもちろん、万が一、流行地域から帰国後に体調不良を感じた場合には、直接医療機関に行かず、必ず保健所や検疫所に電話で連絡するという手順を忘れないでいただきたいです。
エボラ出血熱は危険な感染症ではありますが、適切な知識と準備があれば、そのリスクは十分に管理可能です。この記事が、皆様ご自身と大切なご家族、そして職場の安全を守るための「安心」と「自信」につながることを願っています。
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風邪に似た発熱や頭痛、倦怠感など、気になる症状がある場合は無理をせず医療機関へご相談ください。
当院でも総合内科の診療を行っておりますので、体調にご不安のある方はお気軽にご相談ください。
執筆者
医療法人社団クリノヴェイション理事長
内藤 祥
経歴
北里大学医学部卒
沖縄県立中部病院で救急医療、総合診療をトレーニング
沖縄県立西表西部診療所で離島医療を実践
専門は総合診療
資格
日本プライマリ・ケア連合会認定 家庭医療専門医・指導医
日本内科学会 認定医
日本医師会 認定産業医
日本旅行医学会 認定医
日本渡航医学会 専門医療職





