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インフルエンザの症状【2025-26 年】風邪との違い、受診の目安は?

内藤Dr.

2025-26年シーズンに向けて、インフルエンザに関する総合的な情報をお届けします。この記事では、インフルエンザの典型的な症状から、一般的な風邪や新型コロナウイルス感染症との見分け方、適切な医療機関の受診タイミング、診断後の治療法、そして効果的な予防策まで、皆さんがこの冬を安心して過ごすために必要な知識を網羅的に解説します。ご自身の健康管理や大切なご家族を守るために、ぜひお役立てください。

【症状チェック】これってインフルエンザ?風邪との違いを解説

インフルエンザの症状は、一般的な風邪や近年流行している新型コロナウイルス感染症の症状と非常に似ているため、ご自身で判断するのは難しいと感じる方も多いのではないでしょうか。特に小さなお子さんをお持ちの方やご高齢の方と一緒に住んでいる方は、ご家族の体調変化に敏感になりますよね。このセクションでは、インフルエンザに特徴的な症状や、他の感染症との具体的な違いを比較しながら、正確な見分け方のポイントを詳しく解説していきます。

インフルエンザの典型的な初期症状

インフルエンザの最も特徴的な初期症状は、その突然の始まりにあります。まず、38℃以上の高熱が急に現れることが多く、同時に強い悪寒や全身の震え(戦慄)を伴うのが一般的です。発熱とほぼ同時に、全身がだるい、体が重いといった全身倦怠感が強く感じられ、頭全体が締め付けられるような頭痛や、節々が痛む関節痛、全身の筋肉痛なども急速に現れます。

これらの症状は、風邪がくしゃみや鼻水、喉の痛みといった局所的な症状からゆっくりと始まるのとは対照的で、まるでスイッチが入ったかのように一気に現れるのがインフルエンザの大きな特徴です。発症後1~3日で、これらの全身症状がピークに達することが多いでしょう。特に小さなお子さんの場合、普段の元気がない、ぐったりしているといった様子からも、急激な体調の変化を読み取ることができます。

風邪や新型コロナとの違いは?症状比較表

インフルエンザ、一般的な風邪、そして新型コロナウイルス感染症は、いずれも呼吸器症状を伴うため、症状だけでの自己判断は困難です。しかし、それぞれの疾患には特徴的な症状の現れ方や、強く出る症状、あるいは特有の症状があります。以下の比較表で、それぞれの症状の有無や強さ、進行スピードなどをまとめていますので、ご自身の症状と照らし合わせてみてください。

項目 インフルエンザ 一般的な風邪 新型コロナウイルス感染症
発熱 38℃以上の高熱が急に現れる 微熱〜38℃程度の発熱(あまり高熱にならないことが多い) 発熱するケースが多いが、個人差が大きい
悪寒・戦慄 強い悪寒・戦慄を伴うことが多い ほとんど見られないか、あっても軽い 見られる場合があるが、インフルエンザほど強くはない
頭痛 強い頭痛を伴うことが多い 軽度〜中程度の頭痛 見られる場合がある
関節・筋肉痛 全身の関節痛・筋肉痛が強く現れる ほとんど見られないか、あっても軽い 見られる場合がある
倦怠感 強い全身倦怠感、だるさがある 軽度な倦怠感 倦怠感が強く持続する場合がある
乾いた咳、後に痰が絡む咳が出ることがある 比較的軽い咳、喉の痛みと同時期に現れることが多い 乾いた咳が特徴的、長く続く場合もある
喉の痛み あるが、全身症状ほど強くないことが多い 初期から強く、主な症状の一つ あるが、個人差が大きい
鼻水・鼻づまり 比較的少ないか、後から現れる 初期から多く、主な症状の一つ 見られる場合がある
症状の進行スピード 急激に発症し、数時間〜半日で悪化する ゆっくりと数日かけて進行する 比較的ゆっくり進行する場合もあれば、急激な場合もある
味覚・嗅覚障害 ほとんど見られない ほとんど見られない 特徴的な症状の一つとして見られる場合がある
後遺症(罹患後症状) 肺炎など合併症がなければ残りにくい 残りにくい 倦怠感、思考力低下(ブレインフォグ)、咳などが長引く場合がある

この表からもわかるように、インフルエンザは突然の38℃以上の高熱と、強い悪寒、全身の関節痛や筋肉痛、倦怠感が同時に現れるのが特徴です。一方、風邪は鼻水や喉の痛みといった局所症状が主体で、新型コロナウイルス感染症は味覚・嗅覚障害や強い倦怠感が長引くといった特徴が見られます。これらの違いを参考に、ご自身の症状を見極める際の参考にしてください。

【注意】子ども・高齢者・妊婦にみられる特有の症状

インフルエンザの症状は、年齢や体の状態によって現れ方が大きく異なることがあります。特に、子ども、高齢者、妊婦の方は、一般的な成人とは異なる特有の症状や、重症化のリスクがあるため、より注意が必要です。

子どもがインフルエンザにかかった場合、高熱に伴い「熱性けいれん」を起こすことがあります。これは脳の未熟さから起こるもので、全身の硬直や目の焦点が合わないなどの症状が見られます。また、解熱剤の使用には特に注意が必要で、アスピリンなどのサリチル酸系解熱剤を子どもに投与すると「ライ症候群」という重篤な合併症を引き起こす可能性があります。さらに、ごくまれに「インフルエンザ脳症」を発症し、意識障害や異常言動(意味不明な言動、幻覚など)を呈することもあります。このような症状が見られた場合は、ただちに医療機関を受診してください。

高齢者においては、インフルエンザにかかっても高熱が出にくいことがあります。むしろ、食欲不振、元気がない、ぐったりしている、脱水症状が進行するといった非典型的な症状が前面に出ることが少なくありません。また、免疫力の低下から肺炎を併発しやすく、特に食べ物や唾液が誤って気管に入ってしまうことによる「誤嚥性肺炎」のリスクも高まります。体力の回復が遅れ、寝たきりの状態につながることもありますので、周囲の方が異変に気づいたら早めに受診を促すことが大切です。

妊婦の方がインフルエンザにかかると、免疫機能の変化により重症化するリスクが高まります。肺炎や気管支炎といった合併症を起こしやすく、母体の健康状態が急速に悪化する可能性があります。これは胎児への直接的な影響だけでなく、母体の健康が悪化することで胎児にも間接的な影響が及ぶ可能性があるため、妊娠中は特に予防と早期の治療が重要です。普段よりも少しでも体調が悪いと感じたら、かかりつけの産婦人科医や内科医に相談し、指示を仰ぐようにしてください。

2025-26年冬のインフルエンザ流行予測とウイルスの種類

インフルエンザウイルスは毎年少しずつ変異するため、毎シーズン流行するウイルスの種類や傾向が異なります。そのため、過去の流行データや世界の動向を基に、そのシーズンに流行するウイルスの型が予測され、それに応じてワクチンが製造されます。今シーズン、2025-26年の冬にどのようなインフルエンザが流行すると予測されているのか、また、主なウイルスの型であるA型とB型にはどのような特徴があるのかを、このセクションで詳しく見ていきましょう。

今シーズンの流行傾向は?

2025-26年シーズンのインフルエンザ流行予測は、厚生労働省や国立感染症研究所などの専門機関から公表されるデータに基づいています。インフルエンザの流行状況を予測する上で、例年、北半球の冬に先行して南半球で流行したウイルスの種類や規模が重要な参考情報となります。

現在の予測では、今シーズンはインフルエンザA型(H1N1型pdm09とH3N2型)と、インフルエンザB型(Victoria系統とYamagata系統)が混在して流行する可能性が指摘されています。特に、近年流行が拡大している特定のA型亜型や、これまで流行が少なかったB型系統が優勢になる可能性も示唆されており、注意が必要です。流行のピーク時期については、例年通り12月から3月にかけてですが、ウイルスの種類によっては流行開始が早まったり、例年より長期化したりすることも考えられます。

専門家は、南半球における流行状況や過去のデータから、今シーズンは特にA型とB型が同時に流行する「混合流行」になる可能性も示唆しています。混合流行の場合、一度のシーズンで複数回インフルエンザに罹患するリスクも高まるため、より一層の警戒が必要です。これらの情報を踏まえ、読者の皆さんが適切な予防策を講じ、シーズンに備えることが大切です。

インフルエンザA型・B型の症状と特徴の違い

インフルエンザウイルスには大きく分けてA型、B型、C型、D型がありますが、ヒトに季節性インフルエンザとして流行を引き起こすのは主にA型とB型です。この二つの型にはそれぞれ特徴があり、症状にも違いが見られます。

インフルエンザA型は、ウイルスの変異が非常に速く、豚や鳥などの動物にも感染するため、新型インフルエンザとして世界的パンデミックを引き起こす可能性があります。症状は一般的に急激に発症し、38℃以上の高熱、強い悪寒、全身の倦怠感、筋肉痛、関節痛といった全身症状が顕著に現れる傾向があります。重症化リスクも比較的高く、肺炎などの合併症を引き起こしやすいことも特徴です。A型は、主にH1N1型(いわゆるソ連型)とH3N2型(香港型)の2種類が毎年流行しています。

一方、インフルエンザB型は、A型に比べてウイルスの変異が比較的穏やかで、主にヒトの間で流行します。そのため、世界的パンデミックを引き起こすことは稀です。症状はA型よりも比較的穏やかで、高熱が出ないこともありますが、倦怠感や関節痛、筋肉痛などの全身症状は伴います。B型の大きな特徴として、腹痛や下痢、嘔吐といった消化器症状を伴うことが多い点が挙げられます。また、B型はインフルエンザ流行シーズンの後半、A型の流行が収束し始める頃に流行のピークを迎えることが多いです。同じシーズン中にA型とB型の両方に感染する可能性もあるため、一度インフルエンザにかかったからといって油断はできません。

病院に行くタイミングは?受診・検査の目安を解説

インフルエンザが疑われる症状が出た際、いつ病院を受診すべきか迷ってしまう方は少なくありません。自己判断で様子を見るべきか、すぐに医療機関にかかるべきか、その判断は迅速な回復や重症化の予防に大きく影響します。このセクションでは、特に医療機関への受診を強く推奨する危険なサインや、インフルエンザの検査を正確に行うための最適なタイミング、そして適切な診療科の選び方について具体的に解説していきます。

ご自身やご家族の体調に異変を感じた時に、適切な判断ができるよう、具体的な目安を知っておくことが非常に重要です。

受診を強く推奨する症状(危険なサイン)

インフルエンザの症状は多くの場合、自宅での安静と対症療法で回復に向かいますが、中にはすぐに医療機関を受診すべき危険なサインが隠されていることがあります。年齢を問わず、以下のような症状が見られた場合は、重症化や合併症の可能性を考慮し、ためらわずに医療機関を受診してください。

具体的な危険なサインとしては、まず「呼吸が苦しい、息切れがする」「胸の痛みが続く」といった呼吸器系の異常が挙げられます。これは肺炎などの重篤な合併症の兆候である可能性があります。また、「意識が朦朧とする、呼びかけに反応しない」「けいれんを起こした」といった意識障害や神経症状は、インフルエンザ脳症などの非常に危険な状態を示唆しています。特に小さなお子さんの場合、普段と違う異常な言動には細心の注意を払う必要があります。

さらに、「水分が摂れず、ぐったりしている」「顔色が明らかに悪い」「3日以上高熱が続く」といった症状も、脱水症状や体力の著しい消耗、あるいは他の感染症との合併を示していることがあります。高齢者の場合は、高熱が出なくても食欲不振や活動性の低下が顕著であれば、受診を検討しましょう。これらのサインに気づいた際は、自己判断で無理をせず、速やかに医療の専門家の診察を受けることがご自身とご家族の健康を守る上で最も大切です。

検査に最適なタイミングは「発症から12時間以降」

インフルエンザの診断には、医療機関で行われる迅速診断キットを用いた検査が有効です。しかし、この検査は受けるタイミングが非常に重要になります。最も適切な検査のタイミングは「症状が現れてから12時間経過し、48時間以内」とされています。

なぜ発症直後に検査してもいけないのでしょうか。その理由は、発症して間もない時期では、体内のウイルス量がまだ十分でなく、検査キットがウイルスを検知できない可能性があるためです。この場合、実際にはインフルエンザに感染しているにもかかわらず、「陰性」という結果が出てしまう「偽陰性」となることがあります。これにより、適切な治療の開始が遅れてしまうリスクがあるため、発症後少なくとも12時間程度は待ってから受診することが推奨されます。

一方で、発症から48時間を過ぎてしまうと、抗インフルエンザ薬の効果が十分に得られなくなる可能性があります。抗インフルエンザ薬はウイルスの増殖を抑えることで症状の期間を短縮し、重症化を防ぐ効果がありますが、発症後48時間以内に服用を開始することが最も効果的とされています。したがって、症状に気づいたらまずは自宅で安静にし、12時間を目安に症状の推移を観察しつつ、遅くとも48時間以内には医療機関を受診するよう心がけましょう。

何科を受診すればよい?(内科・小児科)

インフルエンザが疑われる症状が出た場合、どの診療科を受診すべきか迷うこともあるかもしれません。基本的な目安としては、大人の場合は「内科」または「呼吸器内科」を受診するのが適切です。咳や喉の痛みといった呼吸器症状が強い場合は、呼吸器内科の専門医に診てもらうことも選択肢の一つです。お子さんの場合は、年齢にかかわらず「小児科」を受診してください。小児科医は子どもの病気に関する専門知識と経験が豊富で、インフルエンザ特有の合併症にも対応可能です。

また、普段からお世話になっている「かかりつけ医」がいる場合は、まずかかりつけ医に相談するのが最もスムーズでしょう。かかりつけ医はご自身やご家族の健康状態を把握しているため、より的確なアドバイスや診療が期待できます。「家庭医」や「総合診療科」でもインフルエンザの診療は可能です。

受診する際には、事前に医療機関に電話で連絡を入れることをお勧めします。インフルエンザ感染が疑われることを伝えておくことで、他の患者さんへの感染拡大防止のため、入口や待合室を分けて案内してもらえるなど、医療機関側も準備ができます。もし休日や夜間で一般の診療時間外に症状が出た場合は、各地域の「休日夜間急患センター」や、総合病院の「救急外来」を利用することも検討してください。ただし、救急外来は緊急性の高い患者さんを優先するため、事前に電話で症状を伝え、受診の必要性や適切な案内を確認するようにしましょう。

インフルエンザと診断されたら|治療法と自宅療養の過ごし方

インフルエンザと診断された場合、その後の対応が早期回復と周囲への感染拡大防止に大きく影響します。主に、医師の処方による抗インフルエンザ薬での治療と、自宅での適切な療養が中心となります。このセクションでは、インフルエンザと診断された後の具体的な治療法、特に処方される主な薬剤の種類とその効果、そして自宅で療養する際の重要なポイントについて詳しく解説していきます。適切な治療と十分な休養は、ご自身の回復だけでなく、合併症を防ぐためにも非常に重要です。

抗インフルエンザ薬の種類と効果(タミフル・ゾフルーザなど)

インフルエンザと診断されると、医師から抗インフルエンザ薬が処方されることが一般的です。これらの薬は、インフルエンザウイルスの増殖を抑えることで、発熱期間を1~2日短縮し、症状を和らげる効果が期待できます。発症から48時間以内に服用を開始すると、最も効果が高まるとされています。

現在主に処方される抗インフルエンザ薬には、いくつかの種類があります。例えば、「タミフル(オセルタミビル)」は経口薬で、比較的広く用いられています。「リレンザ(ザナミビル)」や「イナビル(ラニナミビル)」は吸入薬で、ウイルスが体内で増えるのを防ぎます。特にイナビルは1回の吸入で治療が完了する場合が多く、服薬の手間が少ないのが特徴です。「ゾフルーザ(バロキサビルマルボキシル)」も経口薬ですが、こちらも1回の服用で治療が完了するため、手軽さがメリットとされています。

これらの薬はそれぞれ特徴があり、患者さんの年齢や基礎疾患、症状などに応じて医師が最適なものを選択します。薬の種類によっては、下痢や腹痛などの副作用が現れることもありますが、通常は軽度で一時的なものです。症状が改善したからといって、ご自身の判断で服薬を中断せずに、医師の指示通りに最後まで服用することが、ウイルスの再増殖を防ぎ、完治を促すために非常に重要です。

自宅療養で大切な3つのポイント(安静・水分補給・湿度管理)

インフルエンザと診断されたら、抗インフルエンザ薬の服用と並行して、自宅での適切な療養が早期回復には不可欠です。特に大切な3つのポイントがあります。

1つ目は「安静」です。インフルエンザは全身に強い倦怠感や筋肉痛を伴うことが多く、体力を消耗しやすい病気です。熱が下がってもしばらくは無理をせず、十分な睡眠時間を確保し、体を休めることを最優先にしてください。体力を温存し、免疫機能を最大限に働かせることが回復への近道となります。

2つ目は「水分補給」です。高熱が続くことで、発汗や呼吸から体内の水分が失われ、脱水症状を起こしやすくなります。水やお茶はもちろんのこと、経口補水液やスポーツドリンク、あるいは味噌汁など、塩分や糖分を適度に含んだものをこまめに摂取することが重要です。特に小さなお子さんや高齢の方は、喉の渇きを感じにくい場合もあるため、周囲の方が意識的に水分摂取を促しましょう。

3つ目は「湿度管理」です。空気が乾燥していると、喉や鼻の粘膜が炎症を起こしやすくなり、咳や喉の痛みが悪化することがあります。加湿器を使用したり、濡れたタオルを室内に干したりして、部屋の湿度を50~60%に保つように心がけてください。適切な湿度を保つことで、呼吸器症状が和らぎ、快適に過ごせるようになります。

市販の解熱剤や風邪薬は使ってもいい?

インフルエンザの際、発熱や関節痛などのつらい症状を和らげたいと、市販の解熱剤や風邪薬の使用を検討することもあるかもしれません。しかし、特に解熱剤については、使用に際して細心の注意が必要です。

特に、お子さん(15歳未満)の場合、アスピリンなどのサリチル酸系薬剤や、ジクロフェナクナトリウム、メフェナム酸といった成分を含む解熱剤をインフルエンザの際に使用すると、「ライ症候群」という重篤な合併症を引き起こすリスクがあるため、絶対に使用してはなりません。ライ症候群は、脳や肝臓に重い障害を引き起こす非常に危険な病気です。お子さんには、比較的安全とされる「アセトアミノフェン」を主成分とする解熱剤を選ぶようにし、使用前には必ず医師や薬剤師に相談することが重要です。

大人の方でも、市販の総合感冒薬には様々な成分が含まれており、すでに医師から処方されている抗インフルエンザ薬や他の薬との併用で、成分が重複したり、思わぬ副作用を引き起こしたりする可能性があります。自己判断で市販薬を使用せず、必ず受診時に医師に相談するか、薬剤師に確認するようにしましょう。症状を緩和するためであっても、適切な薬の選択がご自身の安全を守る上で非常に大切になります。

家族や職場にうつさないために|感染対策と出席停止期間

インフルエンザと診断された場合、ご自身の回復に専念することはもちろん重要ですが、同時に周囲への感染拡大を防ぐことも社会的な責任として求められます。特にご家庭内での感染拡大や、職場・学校での集団感染は避けるべき事態です。このセクションでは、ご自身やご家族、職場の同僚、そして学校の友人たちにインフルエンザを広げないための具体的な対策と、法律で定められている出席停止期間について詳しく解説していきます。適切な感染対策を講じ、定められた期間を遵守することが、早期回復と社会全体の健康維持につながります。

家庭内でできる感染拡大防止策

インフルエンザウイルスは感染力が非常に強く、特に家庭内では濃厚接触が避けられないため、適切な対策が不可欠です。まず、インフルエンザに罹患したご本人は、飛沫感染を防ぐために不織布マスクを常に着用してください。咳やくしゃみが出る際は、マスクの上からさらにティッシュで口と鼻を覆い、ティッシュはすぐにゴミ箱へ捨てて手洗いを徹底しましょう。

次に、ご家族全員でこまめな手洗いと手指消毒を習慣づけることが重要です。石鹸と流水で30秒以上かけて丁寧に洗い、特に指の間や爪の先、手首までしっかりと洗浄してください。アルコール消毒液も併用するとより効果的です。また、ウイルスが付着しやすいドアノブ、電気のスイッチ、リモコン、手すりなど、家族が頻繁に触れる場所は、定期的にアルコールや次亜塩素酸ナトリウムを含む消毒液で拭き取りましょう。

さらに、室内の環境整備も感染予防に役立ちます。ウイルスが滞留しないよう、1~2時間ごとに5~10分程度の換気を心がけてください。窓を2方向開けると、より効率的に空気を入れ替えられます。可能であれば、感染者と非感染者の部屋を分ける「療養部屋の分離」も有効な対策です。また、タオルや食器などの共用は避け、各自専用のものを使用するようにしてください。

いつから学校や会社に行ける?出席・出勤停止期間の目安

インフルエンザと診断された場合、いつから学校や会社に復帰できるのかは、感染拡大を防ぐ上で非常に重要な判断基準となります。学校の場合、学校保健安全法によって「出席停止期間」が明確に定められています。具体的には、「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児にあっては3日)を経過するまで」が学校への出席停止期間となります。

この期間は、たとえ熱が下がって元気になったように見えても、体内にウイルスが残っており、他人に感染させる可能性があるため厳守する必要があります。自己判断で早めに登校・登園することは、集団感染を引き起こすリスクを高めるため、絶対に避けなければなりません。医師の指示に従い、定められた期間が経過するまで自宅で療養しましょう。

社会人の場合、インフルエンザに関する法的な「出勤停止期間」の定めはありません。しかし、学校保健安全法の基準に準じて対応することが一般的であり、多くの企業で同様の規定が設けられています。熱が下がっていても、ウイルス排出が続いている期間に出勤すれば、職場の同僚に感染を広げてしまう可能性があります。職場復帰の際には、必ず医師の診断書を提出し、会社の規定に従うようにしてください。周囲への配慮として、無理のない範囲で休養をとり、完全に回復してから出勤することが、ご自身にとっても職場全体にとっても最善の選択となります。

インフルエンザの予防法|ワクチン接種と日常生活のポイント

インフルエンザは一度かかってしまうと、つらい症状に耐えるだけでなく、周囲への感染拡大を防ぐための自宅療養も必要になります。そのため、治療はもちろん重要ですが、そもそも「かからない」ための予防が最も大切です。このセクションでは、インフルエンザ予防の二本柱である「ワクチン接種」と「日常生活での免疫力向上」に焦点を当て、具体的な方法を詳しく解説していきます。適切な予防策を講じることで、ご自身とご家族の健康を守り、安心してインフルエンザシーズンを乗り切りましょう。

最も効果的な予防策「インフルエンザワクチン」

インフルエンザ予防の最も効果的で確実な手段として広く推奨されているのが、インフルエンザワクチンの接種です。このワクチンは、そのシーズンに世界中で流行すると予測されるインフルエンザウイルス株(A型2種類、B型2種類)を基に毎年製造されており、接種することでウイルスに対する免疫を獲得することができます。

ワクチンは、インフルエンザへの感染を完全に防ぐものではありませんが、発症する可能性を大幅に減らす効果が期待できます。さらに重要なのは、たとえインフルエンザを発症した場合でも、重症化や肺炎、脳症などの合併症のリスクを顕著に低減させる効果がある点です。特に、高齢者や基礎疾患を持つ方、小さなお子さんなど、重症化しやすいとされるハイリスクグループの方々にとって、ワクチン接種は命を守るための非常に重要な予防策となります。

ワクチンの効果が現れるまでには、接種から約2週間かかるとされています。日本でのインフルエンザ流行は例年12月から3月にかけてピークを迎えることが多いため、流行期に入る前の10月から遅くとも12月上旬までに接種を済ませておくことが推奨されます。毎年、秋口になったら早めに接種計画を立てて、ご家族全員で予防に取り組みましょう。

日常生活で免疫力を高める習慣(手洗い・食事・睡眠)

インフルエンザワクチン接種に加えて、日常生活の中で免疫力を高める習慣を身につけることも、インフルエンザ予防には非常に効果的です。日々のちょっとした心がけが、ウイルスへの抵抗力を高め、病気にかかりにくい体づくりに繋がります。

まず基本となるのが「正しい手洗い」です。外出先から帰宅した際や、食事の前には、石鹸を使って30秒以上かけて指先、指の間、手のひら、手の甲、手首まで丁寧に洗いましょう。流水でしっかりと洗い流すことで、手に付着したウイルスを物理的に除去することができます。アルコール手指消毒液も有効ですが、目に見える汚れがある場合はまず手洗いから行うことが重要です。

次に「バランスの取れた食事」も免疫力維持には欠かせません。ビタミンA、C、D、そしてタンパク質などは、免疫細胞の働きを助ける重要な栄養素です。これらの栄養素を豊富に含む野菜、果物、肉、魚などを偏りなく摂取することで、体全体の抵抗力を高めることができます。また、「十分な睡眠と休養」も免疫機能を正常に保つために不可欠です。睡眠不足は免疫力の低下を招くため、質の良い睡眠を確保し、疲労をため込まないように心がけましょう。さらに、軽い運動を習慣にすることや、加湿器などを使って室内の湿度を50〜60%に保つことも、喉や鼻の粘膜の乾燥を防ぎ、ウイルスの侵入を防ぐ助けとなります。

インフルエンザに関するよくある質問

インフルエンザに関して多くの方が抱える疑問について、Q&A形式で詳しく解説します。インフルエンザが疑われる状況や、すでに診断された後の疑問、あるいは予防に関する質問など、読者の皆様が特に関心を持つであろう質問を厳選し、簡潔かつ分かりやすくお答えしていきます。

Q1. ワクチンを接種したのにインフルエンザにかかるのはなぜ?

インフルエンザワクチンを接種しても感染してしまうことは、実際に起こり得ます。まず前提として、ワクチンはインフルエンザの発症を100%防ぐものではないという点を理解しておくことが重要です。ワクチンは体内でウイルスへの免疫をあらかじめ作っておくことで、いざウイルスに感染した際に発症を抑えたり、症状を軽くしたり、重症化を防いだりすることを目指します。

ワクチンを接種してもインフルエンザにかかる理由としては、いくつか考えられます。一つは、接種したワクチンの型と、そのシーズンに流行したインフルエンザウイルスの型が完全に一致しなかった場合です。インフルエンザウイルスは常に変異しているため、ワクチン製造時に予測した型と実際の流行型がずれる「ミスマッチ」が起こることがあります。また、接種した方の免疫状態も関係します。高齢者や免疫力が低下している方では、ワクチンの効果が十分に発揮されず、抗体ができにくい場合もあります。

しかし、ワクチン接種の最大のメリットは、たとえインフルエンザにかかったとしても、重症化や肺炎などの合併症を大幅に減らす効果があることです。特に基礎疾患を持つ方や高齢者、小さなお子さんにとっては、重症化を防ぐことが命に関わる重要な点です。ワクチンを接種することで、インフルエンザによる入院や死亡のリスクを低減できるため、引き続き積極的な接種が推奨されています。

Q2. 熱が下がったらお風呂に入ってもいい?

インフルエンザで高熱が出ていた場合、熱が下がって体力が回復してきていれば、基本的にお風呂に入っても問題ありません。清潔を保つことは、気分転換にもつながり、回復を促す効果も期待できます。

ただし、いくつか注意点があります。長時間の入浴や熱すぎるお湯は、体力を消耗させてしまう可能性がありますので避けてください。ぬるめのお湯で短時間にし、浴室と脱衣所をあらかじめ温めておくなどして、湯冷めしないように気をつけましょう。入浴後はすぐに体を拭き、温かい衣服を着用してください。また、入浴による脱水を防ぐため、入浴前後にコップ一杯の水分を補給することをおすすめします。

もし、まだ高熱が続いている、全身の倦怠感が強い、あるいは頭痛や関節痛がひどいなど、体調がすぐれない場合は、無理に入浴せず、体を拭く程度にとどめるのが賢明です。自分の体調と相談しながら、無理のない範囲で清潔を保つようにしましょう。

Q3. 熱がないけどインフルエンザの可能性はありますか?

「熱がないからインフルエンザではない」と自己判断してしまうケースもありますが、実は熱がなくてもインフルエンザに感染している可能性は十分にあります。インフルエンザは典型的な高熱を伴わないケースも存在するため、注意が必要です。

  • 高齢者の方: 免疫機能が低下しているため、高熱が出にくい傾向があります。倦怠感や食欲不振、軽い咳などの症状が主体となることがあります。
  • インフルエンザワクチンを接種している方: ワクチン接種によって発症が抑えられているため、高熱が出ずに軽い症状で済むことがあります。
  • インフルエンザB型の一部: A型に比べて比較的症状が穏やかな傾向があり、熱が上がりにくいこともあります。腹痛や下痢などの消化器症状が前面に出るケースもあります。

これらの場合、37℃台の微熱や平熱のまま、強い倦怠感、関節痛、筋肉痛、咳、喉の痛みなどの症状だけが現れることがあります。熱がないからと安易に自己判断せず、全身症状が強く、インフルエンザが疑われる場合は、医療機関を受診して相談することをおすすめします。適切な検査を受けることで、早期に診断し、必要に応じて治療を開始することができます。

まとめ

2025-26年シーズンに向けて、インフルエンザ対策は日々の健康管理の中でも特に重要になります。インフルエンザのサインは、突然の高熱や全身の倦怠感、関節痛、筋肉痛といった全身症状に現れることが特徴です。これらが風邪や他の感染症の症状とどう違うのかを理解しておくことで、早期の自己判断に役立ちます。

もしインフルエンザが疑われる場合は、特に重症化のリスクが高い子どもや高齢者、妊婦の方は、迷わずに医療機関を受診することが大切です。受診のタイミングは、発症から12時間以降、48時間以内が検査と治療において最も効果的とされています。診断後の治療は、抗インフルエンザ薬と十分な休養が基本です。

そして、最も効果的な予防策は、毎年流行が予測されるウイルス株に対応したインフルエンザワクチンの接種です。加えて、手洗いやうがい、バランスの取れた食事、十分な睡眠といった日常生活での免疫力向上も欠かせません。これらの対策を講じることで、ご自身だけでなく、大切なご家族や周囲の方々への感染拡大を防ぎ、2025-26年の冬を健康に乗り切ることができるでしょう。

医療法人社団クリノヴェイション理事長

内藤 祥

Naito Sho

経歴

北里大学医学部卒
沖縄県立中部病院で救急医療、総合診療をトレーニング
沖縄県立西表西部診療所で離島医療を実践
専門は総合診療

資格

日本プライマリ・ケア連合会認定 家庭医療専門医・指導医
日本内科学会 認定医
日本医師会 認定産業医
日本旅行医学会 認定医
日本渡航医学会 専門医療職