海外からの渡航者にはリスク大 日本脳炎

日本脳炎は、蚊に刺されることで発症する髄膜炎を主態とする病気です。
主にワクチン未接種の人が、日本脳炎の流行地で蚊に刺された場合に発症しますが、一旦発症すると死亡率が高く、重い後遺症が残る感染症です。
今回は日本脳炎とはどんな病気か、また予防手段としての日本脳炎ワクチンの特徴を簡単に解説するとともに、標準的な接種スケジュールや副作用についてお話していきます。

日本脳炎とはどんな病気?

日本脳炎は、日本脳炎ウイルスに感染した蚊(コガタアカイエカ)に刺されることで感染する病気です。
元々は豚の体内に感染を起こすウイルスですが、感染した豚を刺した蚊が他の豚や人間を刺すことで感染が広がります。
発展途上国だけでなく現在の日本であっても、養豚場でランダムに検査をすると日本脳炎ウイルスがかなりの頻度で検出されていますので、日本脳炎ワクチンの接種は国内で生活するすべての人にとって重要だと言えます。

日本脳炎の症状

日本脳炎は、蚊に刺された後616日の潜伏期間を経て発症します。初期症状には、突然の高熱(3840℃以上)、頭痛、吐き気・嘔吐、めまいなどがあります。
その後、脳炎や髄膜炎に進行すると、意識障害、けいれん、神経障害などの重篤な症状が現れます。重症化すると死亡することもあります。

日本脳炎ウイルスは、感染すると必ず日本脳炎の症状が出るわけではなく、ほとんどの感染者は症状が軽微で気付かずに治癒してしまいます。
感染した人のうち、髄膜脳炎を発症するのはおよそ1000人に1人と非常に低い確率です。しかし一度髄膜脳炎を発症するとその2040%が死亡し、生存者の4570%に精神障害などの重い後遺症が残る重篤な感染症です。発症した場合には有効な治療法がなく、けいれんや呼吸不全に対する全身集中管理で救命を目指すしか手段がありません。

日本脳炎にかかりやすい場所や時期は?

日本脳炎は、東アジア・南アジア地域を中心に流行しており、特に農村部や水田地帯、河口エリアなど、蚊が多い場所で発生します。
日本国内では北海道を除く全域で日本脳炎ウイルスに感染した豚が確認されており、特に西日本(香川県、高知県、佐賀県、長崎県、福岡県)では非常に高い確率で見られます。
日本では年間に数十件の感染報告がありますが、蚊の活動が活発な710月に発症することがほとんどです。

日本脳炎の予防

感染予防には、日本脳炎ワクチンが有効ですので、幼少期より定期ワクチンを受けておくことが重要です。
また流行地では、蚊に刺されないように、長袖長ズボンの着用や虫除けスプレーの使用など十分な対策を行いましょう。
流行地から帰国してから2週間以内で、もしくは西日本で710月頃に突然の高熱を伴う吐き気や頭痛などの症状が出たら、日本脳炎が疑われる可能性があります。
速やかに医療機関を受診しましょう。検査は髄液検査を行います。

日本脳炎ワクチン

日本脳炎ワクチンは、日本脳炎ウイルスに感染することで引き起こされる、脳炎などの重篤な病気を予防するために使用されるワクチンです。
ワクチンを接種することにより、日本脳炎を発症する危険性を7590%程度減らすことができます。
日本で使用されている日本脳炎ワクチンには「ジェービックV」(日本製)と「エンセバック」(日本製)、そして「JENVAC」「IXIARO」などの輸入ワクチンがありますが、いずれも不活化ワクチンであり、生きたウイルスは含まれていません。
1回の接種では十分な免疫ができず、2回もしくは3回以上のワクチン接種が必要で、接種スケジュールはワクチンにより異なります。

日本脳炎ワクチンの副作用(副反応)

日本脳炎ワクチンの一般的な副作用は、接種部位の痛みや発赤、発熱などで、いずれも数日間で治まります。
まれに重篤なアレルギー反応(アナフィラキシー)やけいれん、脳症、血小板減少性紫斑病などの重篤な副作用が起こることもあります。
また以前使用されていた日本脳炎ワクチン(マウスの脳を原材料として使用していたもの)では急性散在性脳脊髄炎発症(ADEM)との関連が疑われる事例の報告がありましたが、現在はこのリスクのあるワクチンは日本では使用されていません。

日本脳炎ワクチンを接種する回数やタイミング

日本では、20234月現在、日本脳炎ワクチンは定期接種の対象となっており、対象の方は無料で接種を受けることができます。定期接種は、4回の接種で完了します。日本脳炎の予防接種の標準的な年齢および接種スケジュールは、以下の通りとなっています。

・1期接種(計3回)→3歳のときに2回(628日の間隔をおく)
・その後おおむね1年の間隔をおいて(4歳のときに)1
・2期接種(1回)→9歳のときに1

成人してからでも、日本脳炎ワクチンは接種すべき?

日本脳炎ワクチンの接種で得ることができる免疫は、時間が経つにつれて少しずつ落ちていきます。

したがって、定期接種の対象とはならない成人の場合でも、アジアの流行地に渡航する場合などはワクチンの追加接種が推奨されています。
また北海道では豚の日本脳炎ウイルス感染が見られないこともあり、定期接種が始まったのは2016年とごく最近です。
北海道にお住まいの方が本州以南に転居するような場合は、新たに3回の接種を受ける必要があります。いずれも定期接種の対象とはならないため、任意接種(自費)となります。

まとめ

以上、日本脳炎ワクチンについての基本的な事柄をまとめました。これから定期接種を受ける年齢に入るお子さんをお持ちの保護者の方はもちろんのこと、アジアの流行地に渡航する予定のある方、北海道出身で本州以南へ転居される方など、現在でも多くの方にとって積極的な接種が推奨されるワクチンです。

日本脳炎ワクチン接種について 詳しくはこちら

2023年4月11日作成

(参考URL)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou20/japanese_encephalitis.html

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou21/dl/nouen_qa.pdf

https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/449-je-intro.html

https://www.niid.go.jp/niid/ja/prevention-top/qa/244-cqa004.html

内藤 祥
医療法人社団クリノヴェイション 理事長
専門は総合診療
離島で唯一の医師として働いた経験を元に2016年に東京ビジネスクリニックを開院。
日本渡航医学会 専門医療職

 

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