意外と知られていない、おたふく風邪の怖い話

「おたふく風邪(流行性耳下腺炎)」について、どのような病気かご存知でしょうか?
6歳までのお子さんに多く流行するウイルス性の疾患で、軽症ですむことが多いですが、大人が罹患すると症状が重くなりやすいことが知られています。
ここでは、おたふく風邪について詳しく解説するとともに、予防のためのワクチンについて紹介します。

おたふく風邪とは?

おたふく風邪は、ムンプスや流行性耳下腺炎とも呼ばれる感染症でムンプスウイルスが原因です。
感染者のうち約60%は3~6歳の子どもで、基本的には子どもの感染症といえるでしょう。
おたふく風邪の症状は多彩な症状が1~2週間程度と長く続きます。突然の発熱があり、耳の下の腫れ・痛みが生じます。腫れは両側・片側のどちらのパターンもあります。唾液を飲み込むときの痛みで食事が取れない、倦怠感(だるさ)、頭痛などの症状が一般的です。潜伏期間は2~3週間です。
一方で、30%程度の人は症状が出ない不顕性感染で経過します。
おたふく風邪は、基本的に何度もかかる感染症ではありません。似たような症状を何度も繰り返している方は、反復性耳下腺炎の可能性があります。ムンプスウイルスの感染が原因ではなく、唾液腺の異常やウイルス感染、アレルギー、虫歯などが、別の原因として考えられます。

おたふく風邪の感染経路

感染経路は飛沫感染または接触感染です。飛沫感染とは、ウイルスを含んだ咳やくしゃみなどを吸い込んで感染することを指します。接触感染は、ウイルスが付着した手で口や鼻に触れることでウイルスが体内に侵入し、感染することです。
感染力はとても強く、基本再生産数(1人が他人の何人に伝染して広めてしまうか)は11~14とされており、インフルエンザの5倍程度の感染力があるとされています。
幼稚園など共同生活をする中で簡単に感染してしまうため、1人感染すると子どもたちの間であっという間に流行してしまいます。

おたふく風邪の合併症

おたふく風邪は軽い病気と思われがちですが、合併症や後遺症の割合は意外と高いです。
最も危険な合併症は、脳・髄膜炎です。精神症状や神経症状を呈し、稀に後遺症を残します。年齢が上がるほど髄膜炎の症状が重くなる傾向にあります。
ムンプス難聴は、頻度は高くないですが、聴力が改善しにくいため注意が必要です。
めまい・耳鳴りは、大人になってからおたふく風邪を発症した場合に多い合併症です。症状が落ち着くまでに数か月かかります。
ムンプス精巣炎は、成人男性が発症した場合に約25%の割合で合併する合併症で、男性不妊の原因の1つです。
成人女性の場合、約7%の割合で卵巣炎を起こします。妊娠初期に感染すると、流産の原因になる可能性もあります。

おたふく風邪では、いつまでお休みすればいいの?

おたふく風邪は感染力が強いため、登園や登校について学校保健安全法という法律で出席停止期間が定められています。
「耳下腺、顎下腺または舌下腺の腫脹(耳の下の腫れ)が発現した後5日を経過し、かつ、全身状態が良好になるまで」は、幼稚園や保育園、学校に行ってはいけません。
腫れの症状が出た日を0日目として数えます。たとえば、土曜日に腫れが出た場合、日曜日が1日目となり、5日目の木曜日までは体調が良くてもお休みです。体調が良くなっていれば、金曜日から登園・登校しても問題ありませんが、発熱が続いていたり、頭痛やだるさが残っていたりする場合は引き続きお休みしましょう。

大人の場合、法律では定められていませんが、可能であれば子供の出席停止期間に準じて病休が望ましいと考えられます。おたふくにかかったことがない人や高齢者、基礎疾患のある人が周囲にいた場合、感染すると重症化するおそれがあるためです。

おたふく風邪の予防にムンプスワクチンを

おたふく風邪は、さまざまな症状を呈し、合併症のリスクもあるとお伝えしました。予防のために、ワクチン接種が極めて有効です。

おたふく風邪(ムンプス)ワクチンの効果と必要性

ムンプスワクチンのメリットは、以下の2点です。
・2回接種すると、おたふく風邪にほぼ掛からなくなる
・仮に掛かった場合でも、症状が軽く重症化しにくい

ムンプスワクチンを国民全員が2回接種している国では、感染者数が99%減少するなど、個人の感染防御に加えて、集団免疫の効果が高い有効なワクチンです。日本では過去の副作用の社会問題などの影響から、未だ任意接種のワクチンであるため、ワクチン接種率は40%程度しかありませんが、接種率が上がればおたふく風邪の流行も起きにくくなります。近年では、自治体ごとに公費対策が進み、無料で接種できるケースが増えてきています。

おたふく風邪は、基本的には一度掛かればもうかからない感染症です。そのため、わざわざワクチンを打たなくても、一度掛かってしまえば良いと考える人も少なくありません。ただ小児、成人に関わらず、おたふく風邪に罹患すると、髄膜炎や難聴、稀ですが膵炎、不妊など後遺症のリスクが常にありますので、ワクチン接種が強く推奨される感染症の一つです。
子どもの頃にワクチンをしたかどうか、掛かったことがあるかどうかわからない場合は、抗体検査を受けることで、ワクチンを打つ必要があるかどうか判断できます。

ムンプスワクチンの接種スケジュールと費用

ムンプスワクチンは、2回の接種が必要です。1回目を接種してから4週間以上あけて、2回目を接種します。

日本においては、ムンプスワクチンは定期接種の対象ではなく、自由診療として扱われています。そのため、費用は医療機関によって異なります。当クリニックでは、当院では1回6,500円(税込7,150円)です。自治体によっては公費認定されているところが多くありますので、まずは役所の予防接種担当部署に費用の問い合わせをすることをお薦めします。

ムンプスワクチンの副反応

ムンプスワクチンは、弱毒生ワクチンと呼ばれる種類のものです。毒性を弱めたウイルスを原材料に作られているため、感染した時と同様の症状が副反応として生じる場合がありますが、実際にウイルスに感染しているわけではありませんので心配はありません。

ワクチンでの頻度 感染での頻度
耳の下、頬などの腫れ 3% 70%
膜炎 0.1% 10%
難聴 ごく稀 0.1%
精巣炎 ごく稀 25%
卵巣炎 ごく稀 7%

<ムンプスワクチンを接種できない人>
・接種日に発熱している
・妊娠中(接種後2か月は避妊をおこなう)
・免疫抑制剤、抗がん剤などを使用中
・ムンプスワクチンでアナフィラキシーを起こしたことがある

まとめ

おたふく風邪(ムンプス)について、また、予防のためのワクチンについてご紹介しました。
おたふく風邪は比較的軽い症状のウイルス感染症ですが、後遺症が高頻度であるため予防が必須です。大人になってから感染すると、重症化することも少なくありません。
今までかかったことのない、またはワクチン接種をしていない場合には、ムンプスワクチンの2回接種をお薦めします。

参考
・日本耳鼻咽喉科学会. 2015-2016年にかけて発症したムンプス難聴の大規模全国調査
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000187162.pdf
・日本小児科学会. おたふくかぜワクチン
https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/VIS_17otafukukaze.pdf
・国立感染症研究所.ムンプスワクチンの有効性と安全性 https://www.niid.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/2254-related-articles/related-articles-402/3784-dj4021.html
・こどもとおとなのワクチンサイト. おたふくかぜワクチン
https://www.vaccine4all.jp/topics_I-detail.php?tid=16

内藤 祥
医療法人社団クリノヴェイション 理事長
専門は総合診療
離島で唯一の医師として働いた経験を元に2016年に東京ビジネスクリニックを開院。
日本渡航医学会 専門医療職

 

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