みずぼうそうと帯状疱疹(たいじょうほうしん)は、実は同じウイルスによるもの

水痘(すいとう)・帯状疱疹(たいじょうほうしん)とは

今回は、水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella Zoster Virus; VZV)による感染症について説明していきます。
この水痘・帯状疱疹ウイルスに感染すると、一般的には水疱瘡(みずぼうそう)と呼ばれる全身の発疹を特徴とする症状を起こします。
また過去の感染から、後に帯状疱疹の原因となることでも知られています。
水ぼうそうと帯状疱疹は、実は同じウイルスの感染によって引き起こされる病気なのです。

水痘とはどんな病気?

日本では、統計上では年間で約100万人が水痘を発症し、そのうち約4,000人が入院を要し、20人ほどが死亡しています。
水痘にかかると、発熱の後に発疹、かゆみを引き起こします。
通常は問題なく回復しますが、一部の人々にとっては深刻な合併症を引き起こすことがあります。
発症者の90%以上は9歳以下の小児です。子どもの場合、重症化すると肺炎や気管支炎、脳髄膜炎、けいれんなどの合併症をきたすことがあります。
成人になってからの感染は頻度は低いものの、小児に比べて水痘そのものが重症化することが多いとされています。

非常に感染力が強いウイルスであり、空気感染で同じ空間の離れた場所にいる人にも容易に感染します。
じゅくじゅくした水ぶくれのような小さな発疹を特徴としますが、この発疹が出始める12日前から感染力があるため、水痘だとは気がつかないまま周囲に感染させてしまう例もあります。
また水痘の発疹を触ることでも接触感染が成立します。すべての発疹が痂皮(かひ:かさぶた)となるまで感染力が持続するので、その期間は隔離が必要です。

水痘の症状

水痘の主な症状は、発熱と発疹、かゆみです。感染のフェーズによって主たる症状が変化していきます。水痘・帯状疱疹ウイルスに接触してから2週間くらい経過した後、初期症状として発熱(多くは微熱程度)が見られます。感染してから初期症状が出るまでのこの2週間を潜伏期間と呼びます。発熱の12日後、虫刺されのような痒みを伴う発疹が顔や頭から全身に広がります。他の感染症と異なり頭皮内に発疹が出ることと、手のひらには発疹が出ないのが特徴とされています。発疹は時間とともに2~3mmとごく小さな水疱(水ぶくれ)に変わり、さらに水疱が破れて痂皮となり、1週間程度で徐々に治っていく経過を取ります。

水痘の治療

発熱、頭痛、かゆみなどに対する対症療法を行います。かゆみ止めや殺菌効果のある軟膏などを1週間程度使用することが通常の治療法となります。一部重症者や免疫不全者の場合などは、必要に応じて抗ウイルス薬の投与が行われます。具体的には、発症48時間以内にアシクロビルやバラシクロビルなどの内服または静注が行われます。

水痘の予防

水痘の予防には水痘ワクチンが非常に有効です。水痘ワクチンの免疫獲得率は高く、ワクチン接種を1回受けると8085%の確率で水痘の発症と重症化を予防でき、2回接種を終了すると軽症の水痘も含めほぼ100%発症を予防できるとされています。

水痘と帯状疱疹

水痘と帯状疱疹は、どちらも水痘・帯状疱疹ウイルスに感染することでかかる病気です。多くの場合は子どもの頃に、水痘・帯状疱疹ウイルスに初めて感染することで水痘を発症するか、もしくは無症状で感染している場合もあります。水痘が治った後もこのウイルスは脊髄の近くの神経節に眠ったような状態で潜んで残ります。そして将来、加齢や過労、病気などで免疫力が落ちた場合に、このウイルスが再活性化して帯状疱疹として発症するのです。

水痘ワクチン

水痘ワクチンには、生ワクチンと不活化ワクチンの2種類があります。現在、日本では乾燥弱毒生ワクチンのみが使用されています。

水痘ワクチンの定期接種の対象年齢と回数

水痘ワクチンは、平成26101日より定期接種の対象となりました。対象年齢は1歳から3歳までで、合計2回の接種が必要となります。

  • 1回目の接種:1歳早期(生後1215ヶ月を推奨)
  • 2回目の接種:1回目の接種後3か月以上あけて接種。2歳までに接種するのが望ましい

また国際的な感染症ガイドライン(CDCなど)でも、水痘ワクチンは世界中のすべての地域と年齢を対象に、生涯2回の接種が強く推奨されています。

水痘ワクチンの副作用

水痘ワクチンの副作用には他のワクチン同様、軽度の痛み、発熱、かゆみ、発疹などがありますが、これらの症状は通常は数日から1週間以内に治まります。

全身症状として、稀に接種後13週間ごろに発熱・発疹・水疱といった水痘のような症状がみられることがありますが、通常は、数日で消失します。ワクチンによって実際に水痘に感染しているわけではありませんので、他人に感染させる心配はありません。

非常に稀ではありますが、重いアレルギー反応であるアナフィラキシー(じんま疹・呼吸困難・口唇浮腫・喉頭浮腫など)や血小板減少性紫斑病(接種後数日から3週ごろに紫斑・鼻出血・口腔粘膜出血など)の重篤な合併症の報告もあります。

成人も水痘ワクチンを打つべきか

成人でも、積極的に水痘ワクチンの接種を受けるべきケースがいくつかありますのでご紹介します。いずれの場合も任意接種となりますので、費用がかかります(当院では1回接種あたり7,500円(税込み8,250円))。

1つ目は、過去に水痘ワクチン2回の接種が完了しておらず、かつ水痘にかかったことがない場合です。この場合は、4週間以上の間隔を空けて、水痘ワクチンを2回打ちます(過去に1回接種していれば、追加1回接種するだけで完了とします)。

2つ目は、50歳以上の方に対する帯状疱疹の予防としての接種です。以前水痘(水ぼうそう)や帯状疱疹にかかったことがある方に水痘ワクチンを1回接種すると、帯状疱疹の発症を予防する効果や、帯状疱疹を発症した場合に後遺症の神経痛が残る確率を下げる効果が認められています。ただ帯状疱疹予防に特化した新しい不活化ワクチンであるシングリックスの方が予防効果は高くなっています。

3つ目は、水痘の罹患者との濃厚接触があった場合の暴露後(ばくろご)接種です。ワクチンは通常は感染する前に接種して予防効果を得るものですが、この暴露後接種は感染してしまった後に接種して発症を予防する特殊なワクチンの使用方法です。例えば家族内で罹患者が出た場合、水痘が他の家族に伝染してしまう確率は非常に高いのですが、暴露後72時間以内に水痘ワクチンを打つと、約90%の確率で発症を阻止できることが分かっています。

まとめ

水痘ウイルスは非常に感染力が強く、小児や免疫不全者には肺炎や髄膜炎などの合併症をきたす重要な感染症で、将来的に帯状疱疹を起こす原因にもなります。
水痘ワクチンの2回接種が、水痘の発症予防と合併症のリスク軽減に有効で、すべての地域と年齢で強く推奨されています。

水痘ワクチン接種について 詳しくはこちら

2023年5月2日作成

(参考サイト)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/varicella/index.html

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000034764_2.pdf

 

内藤 祥
医療法人社団クリノヴェイション 理事長
専門は総合診療
離島で唯一の医師として働いた経験を元に2016年に東京ビジネスクリニックを開院。
日本渡航医学会 専門医療職

 

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